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米国における造船関係研究開発助成制度の実施状況と成果活用等に関する調査

 事業名 造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業
 団体名 シップ・アンド・オーシャン財団  


結言
 以上米国における造船研究開発実施状況について述べてきたが、今後の造船研究開発についてNAVSEAの担当者は、2002年度及び03年度のNSRP ASEプロジェクトについては既に7,700万ドルの予算が確定しており、例えばSPARSやISEあるいはリーン製造方式等の基幹プロジェクトが中断されることはないが、2004年度については予算がつかない可能性があり心配だと発言している。ブッシュ政権の軍事予算は増大の一途であるが、研究開発予算が圧縮されONRやNAVSEAでは部局の副(Deputy)は全て廃止され長(Chief)のみで仕事を進めており、全体の職員数も圧倒的に減らされているとのことである。NSRP ASEプロジェクトは全てが予定通り進んでいれば2003年度の予算で完了するはずであるが、コンピューター関連のSPARS等は80%程度の完成度であり、実用化されるためにはさらに資金が必要である。MARITECHのMariSTEPも期間内には終っていない。期間も1年以上延び、資金も企業内で四苦八苦して調達しているが、造船業界は以前にも増して企業基盤が弱くなっている。造船業界は研究開発はおろか企業基盤そのものを海軍に依存しているので、自ら研究開発を継続出来ない状況となっており、予算を切られたら研究開発も終りとのことである。
 NAVSEA担当者はさらに自動車業界は産業界が強力であり、クリントン政権発足時から続けられている新世代の自動車開発プロジェクトが政府の予算とあまり関係なく進められている状況を造船業界の状況と対比し、造船業界の将来が不安で一杯だと述べている。
 遅れたマラソン走者が先頭集団に追いつきさらに追い越すために残された方法は多くはない。遅れを取り戻すためにペースを速めて先頭集団に追いつきその後遅れないように走らなければならないが、1980年代に米国製造業界がペースを速めて日本やドイツに追いつくためにとった方法はコスト、品質、サービス、スピード等のビジネス・プロセスを根本的に考え直すリ・エンジニアリングであり、そのためコンカレント・エンジニアリングやリーン製造方式が利用された。リ・エンジニアリングは工場の新設等も含めたトップダウンによる強制力が必要である。これに反し先頭集団に追いついた後遅れないようにする方法は“改善”の積み重ねでありボトム・アップである。改善量が少なければまた先頭集団から遅れることになる。米国造船所の中でトップ・ダウンのリ・エンジニアリングで工場全体を作り替えたのはバス・アイアン・ワークス(BIW)のみである(II−3<1>)。BIWはジェネラルダイナミックスに吸収合併されたため、以降艦艇専門工場となり、リ・エンジニアリングの真価を商船建造の場で発揮する機会を失った。クバナ・フィラデルフィア造船所はII−10<1>で述べたペンシルバニア州の助成金以外にも米国内の多くの助成金を受け、先頭集団の技術をそのまま持ち込み、従業員の大半をヨーロッパに送り再教育して先頭集団の一員として出発した造船所であるが、今後とも先頭集団として走れるか、米国内の何らかの事情が災いして先頭集団から遅れていくか、興味のある所である。
 I−3−1<1>「ワールドクラス製造モデル」ではリーン製造方式に基づく理想的な造船所の模型を作っているが、これを実現する力は現在の米国造船界には存在せず、また連邦政府も前述のように造船業の研究開発までも縮小する方向なので、新造船所に投資するとは思えない。過去において米国造船業が新鋭大型造船所に投資した例としては、1970年スプルーアンス・クラス30隻の一括建造に先駆けて、インガルス造船所が従来の「人が船の所に行って建造する」方式から「船が人の所に来て建造する」という、いわゆる自動車の流れ作業方式を取り入れた造船所として有名なパスカグーラ西岸工場を新設した例がある。インガルスは当時リットン・インダストリーの傘下にあり、過去の事例に囚われないリットンの方針は船舶建造にも現れていた。スプルーアンス・クラスの建造でインガルスは、ブロック建造を主張したが、海軍は最初の2隻では許さなかった。しかしインガルスの熱意に圧されて3隻目以降はブロック建造が採用され、ともかく大成功を収めた。この時の新造船所建造資金はボンド(社債)の売り出しで賄われたが、現在は造船会社が新鋭造船所を作るからと言ってボンドを売り出しても、その収益性に疑問を持ち、誰も手を出さない状況となっている。
 SPARSやISE等のバーチャル・エンタープライズ関連のプロジェクトも、現在の開発規模で先頭集団に一挙に追いつくためのリ・エンジニアリングの道具と考えるには無理がある。SPARSの完成度については本文中で述べたがISEも含め基本的に6大造船所向けのものばかりであり、とても全造船所を網羅したバーチャル・エンタープライズと言えるものではない。中手造船所(ECB造船所の中の6大造船所以外の造船所)への展開は次の段階である。
 米国では造船所間のデータ交換の必要性は限られている。例えばバージニア・クラスの潜水艦の建造は、ニューポートニューズ造船所もエレクトリック・ボートからの技術供与を受けて建造することになっているので、両造船所間のデータ交換は細部に至るまで必要である。潜水艦のように小部品が多い船で、サプライヤーのカタログと造船所の部品ライブラリーを一致させるのは大変な作業であるが、その割には利用が限られており先頭集団と違った努力を強いられている。いずれにせよ米国造船業飛躍のためのリ・エンジニアリングは決め手にかけている。
 次に「改善」について考えてみる。本報告書で紹介したプロジェクトの大部分は改善プロジェクトである。上述のようにリ・エンジニアリングによる初期の抜本的飛躍が駄目だとすれば、各改善プロジェクトはその質及び量において先頭集団のそれより勝ったものでなければ、絶対に先頭集団には追いつかない。本報告書で紹介したMARITECH、NSRP ASE、海軍の諸プロジェクトは共通した2つの欠点を持っている。1つはI−2章で述べた米国の造船所の生産性にもっとも関係のある海軍の諸施策を合理化するプロジェクトが一つも組まれていないことである。これは組ませてもらえないと言った方が当たっているかもしれない。民間造船所の立場から購買、設計、建造その他海軍の施策全般にわたる艦艇建造合理化プロジェクト、例えば契約方式合理化、監督方式合理化、設計合理化、工作法合理化と言ったプロジェクトがあってしかるべきである。
 他の一つの欠点はNSRP ASEその他のプロジェクトに機関部や電気部のプロジェクトがほとんど見当たらないことである。機関部や電気部は合理化の宝庫であり「改善」テーマの宝庫である。本報告書に出てくる船体艤装関連のプロジェクトも、塗装や表面処理等の一部を除き、海軍から出されている機関部や電気部のプロジェクトは全て新しい機器やシステムの開発に関するもので、そのテーマのメッシュも荒い。現在造船所で実施されている機関部や電気部の購買、設計、工作を見直し、合理化してNSRP ASE SIPに取込むプロジェクトがあってしかるべきである。新しい機器やシステムは一般に実用化されるまでに長い年月を要しコンセプト段階で終るものものも多い。コンセプトで終る場合は当然「改善」には繋がらない。また採用されたとしても「改善」が実証された頃には先頭集団はもっとペースを速めて先を進んでいるかもしれない。
 米国造船業は深い悩みを抱えている。最近ではさすがに「米国造船業の世界輸出船市場における競争力を維持するため」と言うフレーズは、議会で造船関連予算を獲得する文書以外には使われなくなっている。造船界の生の声は「今ある問題点を解決しなければ絶対に米国造船業の将来はない」、だからNSRP ASEのような研究開発を続けて欲しいと言う切実な発言である。







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