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船舶解撤の新たな進展と今後の展望

 事業名 造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業
 団体名 シップ・アンド・オーシャン財団  


4.5 スクラップ売船(理論的例)
 ヨーロッパの船主(あるいは他の国籍でも)が所有船をスクラップ売船するときの手順は比較的単純である。船主は先ず仲介事業者と連絡を取り、所有船のスクラップ向け買取りについて確実なオファーを募り、当該船の説明、所在および希望の引渡日を告げる。圧倒的多数の事例において、船主の主目的は、解撤の場所や方法について注文をつけるよりも、単にできるだけ高い売値で処分することである。(唯一の例外は環境保護団体が意識的に攻撃目標としている企業であろう。)次に船主は、特に解撤に関連する事項について、当該船の詳しいスペックの説明を求められることになる。この種の事項としては稼動中のプロペラの材質に関する詳細、交換用予備プロペラ備え付けの有無、補機または発電機の要目、船内のバンカー油の残量、バラストタンクの位置、シングル/ダブルハルの別(タンカーであれば)、最近の売買の履歴などがある。船に何らかの「特殊」な特色があれば(例えば貨物油タンクがステンレス製など)、これも具体的詳細を記述し、関連する材料の数量を示す。
 
 その後オファーが出て、売手と買手の間の合意が成立するまで、対案のやり取りがある。大半の事例では、売船は現金取引仲介者を通じて行われ、船主は購入価格の残高について現金預金を至急または電信振込みで確保することができる。現金取引仲介者は次いで当該船をL/C決裁で実際の解撤事業者に転売する。取引が成立すれば、合意覚書が作成され、両者が署名して契約を確定する。BIMCOがスクラップ売船用の標準計画書式(“DEMOLISHCON”)を策定しているが、あまり広く利用されていない。それは船の売手側をあまりにも保護しすぎると一部で受け取られているからである。したがって各主要解撤中心地毎に独自の契約書を採用する傾向があり、それには地域事情を織り込んだ特約が含まれていることもある。一方、ICSの船舶リサイクル行為規範を取り入れたものは1件もない。
 
 売却船が油送船である場合には、売手(または船主から現金買いをする投機家)はガスフリーを条件としないヤードに売りたがる公算が高い。そうすれば、解撤ヤードに持ち込む前にガスフリー施設で貨物油の残渣やスラッジを全て除去させる時間と費用を節約できるからである。
 
 取引のこの段階までは売却に関して、ほとんど問題はない。問題が生じるとすれば、それは一部の現金取引仲介業者が利益欲しさに、ともかくも船を入手するために高値を付け過ぎる場合である。そうするのは、受渡港に船が到着するまでに市況が高騰し、利幅を拡大できるかもしれないという思惑からである。現金取引仲介業者は必ずしも主要解撤国に本拠を置いているわけではなく(最もそのどれかの国民である例は多い)、事業の本拠はいろいろな国にあるが、それは必ずしもバーゼル条約締約国ではなく、したがって条約が課する条件に縛られないのである。
 
 この段階において指摘すべきことは、解撤事業者が現金取引仲介業者から買船する時に、取得価格は解撤国内の製鉄所や再生鉄工場の指値相場に基づくことが通例である。しかし例えば受渡港に船が到着するまでに地元の市況が軟化すれば、解撤事業者は仕入価格を下げさせるために何でもするだろう。多くの場合、値引きを求める主張には全く根拠がない。
 
 船主が直面する実際問題として大きなことは、船の到着に続いて再交渉を求められるリスクである(これは特にインドにおいて、解撤事業者がしばしば利用する戦術である)。このような再交渉に至った場合に、解撤事業者が主に持ち出す口実は、売買契約で船に関する記述が不正確だったということが多い。こういう主張はまやかしも多いが、それを一掃できる保証はない。船主としては、契約に正確かつ真実の情報を記載するように、当該船の船長が船に関する記述を確認していると主張して自衛するほかない。例えば発電機は機付プレートに表示されたkwt/kva単位の電圧を出力できなくてはならない。同様に、機械、装置等のどれかが正規の稼動状態になければ、これは契約に明記されなければならない。同じように重要なこととして、売却対象から特に除外されず、契約の対象とされるものは、何一つ当該船から撤去してはならない。55
 
 実際に不正確な記述があった場合には、所有者はこの問題を現金取引仲介業者とも調整しなければならない。仲介業者も解撤ヤードとの食い違いを是正しなければならないからである。しかしもし前述のガイドラインにしたがっていれば、不正確な記述が生じる可能性は遥かに低い。そうすれば船の売手は、再交渉の必要が生じることなしに、売却船を引き渡せる可能性が遥かに高くなる。同様に、現金取引仲介業者にしても、解撤事業への船の転売を紛争なしに無事完了できる可能性を高めることができる。
 
 取引が最終的に完了すると、売手から買手に渡される唯一の書類は、管轄当局すなわち旗国または船級協会が船について発行する証明書等ではなく、取引自体に関する文書である。したがって、現状ではこのような第三者が介入して、公認の解撤施設に船を売却するよう強制する余地はない。
 
4.6 環境保護団体の監視に対する船の買手および売手の取り得る対応
 船主(特にヨーロッパの国に本拠を置く船主)が、スクラップ売船しようとしている船が環境保護団体の注目を引いたことを知った場合、当該船の処分に関する選択肢は限られてくる。そうなれば、環境団体から認められている、環境にやさしい解撤施設でなければ船を売却できないという圧力を感じることになる。実際のところ現状では、これは売却先をほぼ中国のヤードに限定してしまう結果となる。56
 
 以上述べた理由から、多数の売船は市場外で、内密の交渉で行われてきた。こういう取引方法といえども、船主が環境保護団体の注目を引かないという保証はない。しかしながら、一般に内々の売船であれば、船が受渡港に近づくまで、あるいは事情によっては到着してから報告されるに過ぎないから、荷主にとってはそれだけ事が簡単になる。このような売却戦術に頼ってきたのは、一般に悪い風評が立つと打撃がもっとも大きい船主、すなわちメジャー・オイルや一流船主である。
 
 理論的には船主が現地の代理人を指名するのが遅いほど、売船取引の内密性は長く維持できる。したがって環境保護団体の目を避けることができる。一般に、解撤のために輸入される船舶について指名された代理人は、その到着予定日を地元の港湾当局に通報する義務を負っている。次いでこの情報は港湾当局の船舶入港告示に掲載される。明らかに、船主が売船契約の成立と同時に代理人を指名すれば、到着予定日はそれから数日中に告示される。逆に代理人の指名が例えば到着5日前であれば、環境保護団体が当該船に対して何らかの対策を取る時間はわずかしかない。しかしこの戦略とて絶対確実とはいえない。一部の環境保護団体は特定の解撤施設に人員を常駐させているからである。インドのアランはこれらの団体の監視の主目標として知られている。
 
 解撤事業者の観点からすれば、解撤船の到着、そして海浜での作業であれば、それを浜に乗り上げさせるのが早ければ早いほど好都合である。そうであるから、解撤船が海浜に乗り上げてからでも「抑留または押収」することが不可能ではないが、環境保護団体としてはきわめて困難な作業である。そうするためには管轄裁判所に当該船の抑留が「正当」であることを立証しなければならない。この手続は数日で済むものではなく、裁判所の許可が下りる頃には(たとえ下りたとしても)解撤作業は既に進行中である。最初に除去するのは船名表示とファンネルマークであるから、船の同定が一層むずかしくなる。これが現時点で船舶解撤事業者が、環境保護団体からの注目という点で、唯一の気がかりな事項である。
 
 船主の視点からすれば、多数の船舶がリベリアなど「友好的」な旗国に登録され、管理会社が船主の代理人として船舶を管理してくれる。この措置はもちろん、たとえヨーロッパ船主の船とはわかっていても、実際の船主の正体を隠すことにより、環境保護団体の注意をそらすのに役立ってきた。この戦略は現在のところ機能しているが、今後いつまでそれが機能し続けるかは明らかでない。既にメジャー・オイルや独立船主数社は、認められたヤードに売船して環境保護ロビーを宥和しようとしている。「プレスティージ」号の油流出事故を受けて新たな規制が船舶に課されようとしている今日、船主に環境ロビーの条件を護らせようとする圧力は一層高まるものと思われる。
 
 以上述べた制約にもかかわらず、グリーンピースが既に処分の経緯を監視しようとする船舶50隻のリストを調えたことは特筆に値する。その50隻の詳細はグリーンピースのウェブサイトに掲載されていて、内訳はタンカーの他にもケミカル船、コンテナ船、客船など多岐にわたる。57うち数隻は、グリーンピースが公認ヤード以外での処理を妨げるのに失敗したため、既に解撤済である。失敗した一因は、大企業以外の所有船腹であるため、処分する会社を「名指しして恥を掻かせる」戦術があまり通用しなかったことにある。一般大衆に名を知られている商船の所有者などわずかしかいない。また一般大衆がその船主の船隊利用を直接ボイコットすることもできない。これに対してタンカーを所有する石油会社の場合、消費者はその会社の製品を買わないという選択が可能である。同様に客船についても、クルーズ船やフェリーを「非公認」の手段で解撤させれば、将来の顧客はライバル会社があればそのサービスに乗り換える可能性もある。
 
 解撤ヤードにとって、上記のように環境保護団体の注目はあまり深刻な問題にならない。したがって自主的に決定できる状況であれば、解撤事業者は環境保護団体の要求など無視すると見てよい。たとえ有効な措置により船が解撤予定ヤードに到着するのを妨げられても、スクラップ船の供給が潤沢で、他船を入手することができれば、解撤事業者の状況は以前と全く変わりないということになる。
 
 理論的には、政府の命令により解撤事業者に解撤方法のクリーン化、安全化を強制することはできる。例えば特定の有害物質が先ず除去されなければ、船舶解撤の許可を拒否するという方法もある。同様に、例えば加熱作業を開始する前に船を完全にガスフリーさせる規則を設けることもできる。しかし以下に説明するように、一部の国ではこのような規制を実施するのに実務上の問題があるし、また主要解撤国の政府には、解撤事業を阻害することにより害われる既得権が存在するのである。
 

55
一般に、大抵の解撤事業者は、危険物質が先ず除去された後でなければスクラップ船の引渡しを受けないと主張するまでにはまだ至っていない。スクラップ船は解撤ヤードに引き渡される前に所有者の責任で「脱汚染」させようとする、バーゼル条約の規定や環境保護団体の努力があっても、なおこれが現状なのである。唯一の例外は中国の「公認」解撤事業者であるかもしれないが、ブローカー筋も、それが実際に例外であるか否かを確認することはできなかった。
56
例えば1999年にドイツ船主Hamburg Sudは自社のコンテナ船2隻(“Columbus Australia”と“Columbus America”の姉妹船)を、1997年に開設されたばかりのXiagangのJiangyinヤードに売却した。Hamburg Sudから派遣された職員が、解撤ヤード側と緊密に協力して解撤工事を監督した。これら2隻が中国のヤードに売却されたのは、1998年にHamburg Sudがアランで1隻を解撤させた際に、その解撤方法に不満を抱いたためである。
57
しかし現在までのところグリーンピースは、これを国レベルあるいは国際レベルの問題に格上げするまでに至っていない。それどころかこのキャンペーンはあまり報道されていないので、大衆の認知度も限られている。







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