1993/09/17 朝日新聞朝刊
AWACS 高価な空飛ぶ司令部(みんなのQ&A)
Q 最近、社会党の閣僚らから「冷戦が終わったのに、導入する必要があるのか」と異論が出ている空中警戒管制機(AWACS)って、どんな航空機なの。
A 簡単に言うと、「空飛ぶ司令部」。旅客機の背中に皿型のレーダーを載せ、敵機の接近を探知し、味方の戦闘機を空中で指揮統制する最先端の軍用機だ。政府は中期防衛力整備計画(一九九一―九五年度)で四機導入を盛り込んでいる。すでに今年度予算で二機を計上し、防衛庁は来年度予算で残りの二機を要求している。
Q 高価だと聞いたが。
A 来年度の概算要求だと、一機五百五十三億七千万円。四機購入すれば、二千二百億円を超す大型プロジェクトだ。臨時国会に提出される政治改革関連法案の中で政党への公的助成が論議になったね。政府・連立与党は当初、年間六百億円でまとめようとしたが、「多すぎる」との批判に配慮し下方修正した。AWACS一機で、その六百億円にほぼ相当するといえば、巨額さが分かるかな。
Q いつごろから導入の話があったのだろう。
A きっかけは七六年九月、旧ソ連のミグ25戦闘機が領空侵犯した事件。このとき、自衛隊の地上レーダーは急降下したミグを途中から見失い、函館空港に着陸するまで気づかなかった。地上レーダーで捕そくできない低空飛行への防空体制強化が急務となった。
Q それでAWACSを導入することになったのか。
A いや。政府は七九年度から早期警戒機E2Cの調達を開始した。AWACSも比較検討されたが、当時は「作戦司令部、戦闘指揮所等の代替機能を含むものであるため、運用要求をはるかに上回る」と見送った。「そんな高性能は不要だ」というわけだ。高すぎるのも難だった。E2Cは一機約百億円。今年度末までに十三機配備される。
Q なのに、どうしてAWACSが必要になったの。
A 防衛庁は「戦闘機のミサイル射程が長距離化し、E2Cより広域の探知能力を持つAWACSの必要性が高まった」と説明している。同庁によると、通常約一万メートルの高度で運用され、直径一千キロメートル以上の探知能力があるそうだ。ただ費用対効果の疑問や本土防空ならE2Cで十分という専門家もいる。
Q 最近は領空侵犯機も大幅に減っているし、今年の防衛白書も「極東ロシア軍の活動も低調」と述べているけど、そうした流れに逆行しているのでは。
A そういう視点で上原康助国土庁長官らも反対した。ただ軍事的事情だけで判断できない側面もあるんだ。日米間には貿易収支問題があり、黒字減らしの有力品目でもあるんだ。米国議会も購入を求めている。むしろ、この観点の方が大きな問題かもしれない。
Q 対米配慮か否かという議論だね。
A そう。だから、防衛庁幹部には「防衛庁の判断を超えた問題だ」と言う人もいる。税収不足など財政事情や国内の軍事産業保護の観点から対米配慮には反論もある。細川政権が来年度予算案編成でどう決断するのか。どっちの選択でも異論が出そうな難問だ。
(佐野寛仁 政治部)
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