2001/11/10 朝日新聞朝刊
そんなに旗を立てたいか 海自艦隊派遣(社説)
米英軍によるアフガニスタン空爆から1カ月が過ぎた。テロリストとその支援者を追いつめる、という当初の軍事攻撃の狙いは、達成されつつあるのだろうか。
戦況だけでなく、ラマダン(断食月)を間近に控えた今後の作戦行動の展開も、はっきりしない。
先行きの不透明感が増す中、長崎県・佐世保基地から、海上自衛隊の護衛艦2隻と補給艦1隻がインド洋に向けて出航した。
防衛庁設置法の「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究」を根拠にした派遣で、海域の気象、航路の安全、船舶の運航状況などの情報収集が主な任務だという。
同時多発テロから間もなく、神奈川県・横須賀を母港とする米空母キティホークを自衛隊の護衛艦が沖合まで護衛したときにも、この法律が使われた。
しかし、防衛庁設置法にいう「調査・研究」は本来、自衛隊の本務である国防に関しての規定とみるのが自然だろう。
戦闘地域と近接した海域へ初めて海自の艦船を派遣する。安全保障政策の根幹に重大な変更を加える事態である。使える法律は何でも使え、といわんばかりの安易な拡大解釈は容認できない。
これがまかり通るのなら、「情報収集だ」といえば、どこにでも自衛艦を派遣できることになってしまう。
テロ対策特別措置法の成立を受けて、政府は米軍などに協力する自衛隊の派遣先や任務などを定める「基本計画」を近く閣議決定する予定だ。
基本計画の策定に向けた情報収集が目的というのなら、まだわからなくもない。ところが、3隻がインド洋の目的海域に到達するのは計画決定より後になるという。
「情報収集」は名目にすぎないのだ。3隻は基本計画決定後に追加派遣される艦船と合流して、米軍艦船に燃料などを補給・輸送するための「先遣隊」としての役割を担う、と見るべきだろう。
インド洋やペルシャ湾海域には、米英軍による武力行使を支援するため、フランス、カナダ、オーストラリアなどの駆逐艦やフリゲート艦が展開している。
政府が基本計画決定を待たずに海自艦隊の派遣を急いだのも、「日本の存在感を示す機会を逸する」(外務省幹部)という焦りが先に立ったからではないか。
対テロ特措法は、自衛隊の派遣命令から20日以内に活動内容について首相が国会で承認を求めるよう定めている。私たちは、文民統制の原則や、派遣前に十分な検討が必要だという見地から、事前承認を主張した。同法の制約を受けない艦船による情報収集などの活動が既成事実化すれば、事後承認の仕組みさえ空洞化しかねない。
テロ撲滅に限らず、憲法の枠内で、自衛隊が国際社会のために持てる力を発揮する場面は今後もあるだろう。今回のようなやり方を繰り返してはならない。
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