2002/12/30 朝日新聞朝刊
自衛隊の統制者は誰か 統合運用(社説)
陸海空の3自衛隊を一つの指揮、命令系統の下に置き、効率的で迅速に動けるようにする。防衛庁の統合幕僚会議が自衛隊の縦割り運用の弊害をなくすことをめざした改革案をまとめた。
3自衛隊の活動の調整役である現在の統合幕僚会議議長にかえて、文字通り3自衛隊制服組の最高指揮官となる統合幕僚長(仮称)を設け、防衛庁長官の命令を一元的に受けて実行する。
霞が関の例にもれず、自衛隊も縦割り体質の弊害が長く指摘されてきた。
今回、制服組がみずからそれを提言するようになった背景には、自衛隊の役割や活動が冷戦後大きく変化した事情がある。
平和維持活動(PKO)や対テロ戦支援の海外派遣、災害救援、不審船への対処。これらに「使える自衛隊」になるためには統合運用が欠かせないというわけだ。
例えば不審船事件の場合、船を追う海上自衛隊、上空から幅広く情報を集める航空自衛隊、警察などとともに情報収集をする陸上自衛隊がばらばらでは始まらない。
憲法に沿って、自衛隊が役割を広げることを支持したい。効率的な運用は、自衛隊の規模を抑制的に考えてきた防衛政策の伝統からも好ましい。
ただ、提言には不十分な点がいくつもある。指揮、命令にかかわる部分以外で縦割り体質が温存され、それが統合運用の足をしばる恐れがあることだ。
各自衛隊がそれぞれおこなっている予算要求や人事、兵器や備品の調達も大胆に見直すことが必要である。
組織の論理を離れ、3自衛隊全体を時代に合ったものに変え、合理化する新しい構想を練らなければならない。とくに人員の過半数を占める陸上自衛隊について再検討することが急務だろう。
もっと大事なことがある。
自衛隊の一元的な運用ができることで、最高指揮官である首相や防衛庁長官に対する統合幕僚長や制服組の発言力が必然的に高まるだろう。そこで、いよいよ重要になるのが確固とした文民統制である。
ところが、現状はお寒い限りだ。
文民統制には三つの段階がある。防衛庁内部の文官による自衛隊の管理、首相による防衛庁、自衛隊に対する指揮統制、自衛隊の行動に対する国会の監督と承認である。最も重いのが最後の国会の役割であることはいうまでもない。
自衛隊のPKOについて、各政党は国際的な視野からの議論をしてきたか。海自のインド洋派遣にかかわる情報を政府は国会に開示したか。十分な軍事的知識も議論もないまま、政府の方針を追認してきたのがこの国の文民統制の現実である。
自衛隊の装備や活動は政治が決める。それには、国会と国民が広く情報を共有することが不可欠だ。統合運用の時代にはなおさらである。
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