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国際海事情報シリーズ81 欧州の国家造船業を支援するEUの諸政策

 事業名 造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業
 団体名 シップ・アンド・オーシャン財団  


ECの臨時防衛メカニズム(TDM)
 2002年6月になるとEUは韓国に関するWTOへの申し立てに伴い、臨時の防衛メカニズムTDM(Temporary Defense Mechanism)30を導入した。これは欧州委員会の調査の結果、特に韓国の不公正行為によって大きな損害を受けたと判断された種類の船舶に適用された。
 
 その結果、コンテナ船及び化学薬品タンカーと石油製品タンカーの建造に対する直接助成は許可されることとなった。しかし、これらの助成は韓国の造船所が市場価格を下回る価格を提案していることが証明できる場合にのみ許可される。また、臨時の新政策のもとで許可される助成の上限額は受注価格の6%と設定されている。このような船価助成は欧州委員会に申請された上で受注契約をEU内にとどめておくために必要最低限の助成金額であることが明確に立証されて初めて許可される。EU内で競合相手となり得る全ての造船所はこれらの申請について知らされ、欧州委員会に意見提出する機会を与えられる。
 
 既存の規則で定められた三年の工期とその工期を特例的に延長する可能性は改正規則にも盛り込まれた。改正規則の有効期限は2002年7月より2004年3月31日までとなっている。その間にWTOのパネル31が裁定を下すことが予想されている。
 
 2003年6月25日に欧州委員会は防衛メカニズムの適用範囲に液化天然ガス運搬船を含むことを決定。競争政策委員会のマリオ・モンティ委員長はこれが特例であることを強調した。欧州委員会は貿易障壁規則の調査の結果32、韓国の不公正行為がEU造船のこの部門にも打撃を与えていたことが判明したためにこの処置に踏み切った。理事会規則(EC)No1177/2002の制定を以て液化天然ガス運搬船の建造契約に対する直接助成も許可されることになった。
 
 これでも一部の加盟国からは最近不満が表明された。例えば、フランスはTDMの期限を2004年3月以降も延長するべきであると主張している。
 
 また、イタリアも2003年7月にモンティ委員長に宛てた正式書簡の中でTDMの助成レベルが低すぎるという苦情を申し立てている。6%の助成上限はアジアの競合相手との価格差(普通20%に達する)を縮めるには低すぎるという主張である。欧州の造船所からもTDMによって許可される助成レベルの低さに関する苦情が出されている。
 
 さらに、イタリアはTDMの焦点が既にアジアの造船所に優位を取られている部門に限られていることを指摘、その範囲の狭さを批判している。イタリアはEUの造船所がまだ優勢であるローローフェリーにもTDMが適用されるべきであると主張している。
 
 欧州議会の反応も注目される。欧州議会は2003年5月に欧州委員会が提出した第6回造船報告に関して独自の調査を発足、その中で欧州議員はTDMの適用されない種類の船舶建造に対して韓国の造船所が与えている損害に関する調査を迅速に行うよう、EUや加盟各国を促した33
 
 幾つかのEU加盟国(造船業を持たない国)が原則として造船に対する助成の再導入に強く反対しているため、欧州委員会がこれらの要請に応えることは多分、あり得ないだろう。これに加えて、船価助成を廃止するOECDの協定締結が予想されることや他国の競争法違反行為によって直接的に損害を受けた商品に関してのみ防衛手段を取ることが許可されているWTO規則によっても欧州委員会に可能な対応策は制限されている。
 
WTOでの戦い
 2003年6月11日、欧州委員会はWTOの紛争処理委員会に対し、6月24日予定の定例会議において韓国の造船所による不公正行為の疑いを審査するパネルを設立するよう要請した。これは二者会談やWTOの協議が問題の解決に至らなかったために決定された動きである。2002年10月以来、WTOの協議は3回行われた。欧州委員会は韓国の造船所に対する輸出補助と非合法助成の両方の審査を要請している。これは具体的には国営の韓国輸出入銀行(KEXIM: Korean Export-Import Bank)による輸出信用の供与や造船のリストラ助成(特に大宇社に対するもの)を指していた。
 
 2003年6月24日には韓国がWTOの紛争処理委員会の設立に関するEUの要請を阻止した。このためパネルの発足は延期となり、2003年7月21日にようやく設立された。パネルは2003年末までに裁定を下す予定である。
 
 一方、9月の初めには韓国が欧州の防衛メカニズムは欧州の造船所に対する不公正な助成供与であるとする訴えをWTOに提出し反撃に出た。
 
各国の事例
 EU加盟国のほとんどは規則1177/2002に基づく新しい援助措置を既に欧州委員会に通知している。
 
 現時点では三つの援助措置が欧州委員会に承認され、公示されている。2003年3月19日にはドイツの臨時防衛メカニズムが規則1177/2002に適合するものとして認可された。ドイツのこの新措置はコンテナ船や石油製品タンカーの建造の契約価格の6%以下を供与する助成である。ドイツの場合、韓国からの競争の影響に関する証拠が不十分であるとして欧州委員会は当初、認可を渋った。しかし、妥協策として、これらの船舶の所有者に当る発注元が市場を入念に調べた結果、韓国の造船価格が助成を受けないドイツの造船価格を下回ることを確認したと概要する宣言書を発行することを条件に認可は下りた。ドイツは2003年に12億ユーロの造船助成を行う予定である。
 
 2003年春には欧州委員会がデンマークとオランダにおける臨時防衛メカニズムの実施を認可。オランダの措置は6千万ユーロに達し、2003年9月1日より実施されている。この助成はコンテナ船、石油製造・化学薬品タンカー及び液化天然ガス運搬船の受注高の6%を供与。また、欧州委員会は2003年春にフランスが液化天然ガスタンカーの建造に関して臨時防衛メカニズムを適用することを許可。現在、スペインにも同じメカニズムの適用を許可するべきであるかを審査中である。
 
 ノルウェー政府も臨時防衛メカニズムを実施するEUの例に従って船価助成を継続する意志を明らかにしている。これは2004年度政府予算に関して討議されているため、最終的にはノルウェー議会の採決を仰ぐことになる。
 
1-2 政府による直接あるいは間接の資金移転と債務免除:EU閉鎖・リストラ援助の場合
 EUの援助措置の中には、閉鎖あるいはリストラプロセスにある企業のための直接、間接の資金移転や負債の帳消しを含むものがある。これらの援助は、韓国のカテゴリーの主にNo.1とNo.4に含めることができるが、同時に厳しい条件34の下に置かれている。国際レベルでこれらの援助を吟味する際には、これらの条件を考慮しなければならない。
 
 一般的に言って、困難な状況にある企業救済及びリストラのためのEU援助は、1994年に成立し、1999年に修正された『困難な状況にある企業救済及びリストラのためのEU援助に関するガイドライン』に依拠している35。これらのガイドラインはまた、造船・船舶修理・改修業界にも、これらのガイドラインが1540/98規制によるこの業界に適用される個別なルールに適合しているという条件の下で、適用される(下記を参照のこと)。
 
 しかしながら、EU法には、困難な状況にある企業についての共通した定義はない。判例により、欧州委員会は、ある企業が困難な状況に陥るのは、「企業が、自らの資金、ないしはオーナーあるいは株主ないしは貸付者から得られた資金によって、公的機関の外部からの介入なしでは企業を短期ないしは中期に経営破綻に追い込むと見られる損失を補填できなくなった時」だとみなしている36。新たに創設された企業は、その財務状況が脆弱なものであっても(例えば、それが前身となった企業の会社清算により生まれた場合)、救済・リストラ援助の対象とはならない。
 
 現実には、救済及びリストラはしばしば、同じオペレーションの表裏をなしている。救済援助は、しかしながら、会社清算か会社再建計画を作成し、欧州委員会から計画の承認を得るために必要とされる時間を与えるための一時的援助と定義されている。それゆえ、救済援助は、貸付保証ないしは貸付を通した現金援助の形だけで実施される37。救済援助は、一回限りのオペレーションであり、最大で6か月に限定されている。援助はまた、他の加盟国の産業に悪影響を与えてはならず、許可された期間の間だけ、業務を継続させるのに必要な額(賃金及び通常の仕入れコスト)に制限されている。
 
 現在の造船業界の状況から見てより重要なリストラ援助は、ある企業の長期的業務継続能力の回復を目的としたもので、生産性の向上のための造船所の再編・合理化、赤字部門の切り離し、より採算性が高く、可能性の大きい業務への造船所業務の多角化等への援助を含んでいる。このタイプの援助は、増資、債務の帳消し、条件のよい貸付、損失の補填及び保証供与を含んでいる38
 
閉鎖援助に関する枠組み
 造船援助に関する規制1540/98の第4条によると、加盟国は、造船・船舶修理・改修業界における全面・部分閉鎖に由来するコストをカバーするため、援助を与えることができる。その主な条件は、閉鎖に由来する生産能力の削減が、真正かつ不可逆的な性格を持つことである。閉鎖される造船・船舶修理・改修施設は、少なくとも10年間は閉鎖されたままでなければならない。
 
 閉鎖援助の対象となるコストは、例えば、余剰となった人員や、早期退職の対象となる人員への支払いや、労働者の再訓練費用である39。さらに、造船所の全面閉鎖の場合、援助は与えられるが、その額は残余資産価値、あるいは、3年間の期間にわたり該当設備から得られる、固定費軽減額の割引価値を超えてはならないとされている。加えて、未完了の作業を終わらせるために必要とされる貸付、あるいは貸付保証の形をとった援助40は、作業の大部分が既に終了しているという条件の下でしか与えられない。
 
再編援助に関する枠組み
 リストラ援助を与えるための条件は、厳しく制限されている。1994年のガイドラインと比較すると、1999年のガイドラインは、これらの条件を厳しくしている。
 
 リストラ計画を評価する際に欧州委員会が適用する一般的な原則のうち、このタイプの援助が許可されるのは、リストラがさらに幅広い欧州の利益に反しないことが証明された場合に限られるというものだ。また、あらゆる援助は、リストラ計画が厳密に実施されることを条件としている。計画は、妥当な期間の間に、対象となる造船所の長期的な業務継続可能性を回復するものでなければならない。さらに、リストラは、将来の市場と営業条件に関する現実的な見通しに基づいたものでなければならず41、援助額は、実施されるリストラを可能とするのに必要とされる最小限のものでなければならない。
 
 上に挙げた条件に加え、規制1540/98の第5条は、造船・船舶修理・改修施設のリストラ向けの援助のための以下のような特有の条件を定めている。
 
・造船所が既に、規制1013/97によるリストラ援助を受けていないこと42
 
・援助が、一回だけのものであること(すなわち、新たな援助が、対象となる企業、あるいは対象となる企業を法的に継承した企業に与えられないこと)。
 
・対象となる企業の造船・船舶修理・改修能力の真正かつ不可逆的な削減が行われ、援助が、その目的に適合したものであること。
 
・削減される生産能力が、援助が通知されるまで、造船・船舶修理・改修のために正常に使用されていたこと。
 
・削減される生産能力が、欧州委員会による援助の承認から、少なくとも10年間は、使用されないこと。
 
・削減される生産能力が、他の業務に使用される場合、造船・船舶修理・改修に関係のない業務であること。
 

30造船の臨時防衛メカニズムに関する2002年6月27日の理事会規則(EC)No1177/2002。
31欧州委員会はWTOの紛争処理小委員会の設定を2003年4月に要請する予定となっている。小委員会が設立されると(認められれば要請から2ヵ月後)12〜15ヵ月以内にEUと韓国の貿易紛争に関する結論を出すことが予想される。
322000年11月にCESAが提出した苦情をもとに行われた1回目の貿易障壁規則の調査ではコンテナ船及び石油製品・化学薬品タンカーの市場に損害が認められた。
33しかし、この採決当時、LNG船へのTDM適用はまだ許可されていなかった。
34本節ではこれら条件のうち主要なものについて扱っていく。
35経営困難にある企業の救済及びリストラを目的とした国家援助に関する1994年ガイドライン OJ C 368, 23.12.1945, p.12.を修正する、困難な状況にある企業救済及びリストラのためのガイドライン OJ C 288, 09.10.1999, p.2-18。
36一つ前の脚注を参照。
37韓国の分類案における援助措置No1(d)または6(a)。
38韓国の分類案における援助措置No5, 4(a), 6(a), 1(a)。
39韓国の分類案には含まれていない。
40韓国の分類案における支援措置No1(d)または6(a)。
41例えばこれは、市場調査を行い、競争を妨げないための措置を含むものでなければならない。欧州委員会は、こうした措置を元に、リストラ計画の詳細を吟味する。
42リストラ中の造船所に対する援助について1997年6月2日付けの理事会規則(EC)No 1013/97、OJ L 148, 6.6.1997, p.1-3。この法文は失効している。これは、ギリシャ、ドイツ、スペインに対し、1998年12月31日まで追加の事業援助を許可することを目的としたものであった。







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