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国際海事情報シリーズ84 欧州造船業を巡る知的財産権とその保護-英国を中心として-

 事業名 造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業
 団体名 シップ・アンド・オーシャン財団  


1-6. 秘密情報及びノウハウ
 英国法は、「秘密情報」について一定の保護を認めている。秘密情報が保護の対象として認められるには、公に入手不可能であること、また保護が正当化されるだけの「重要性」を含んでいること(平凡な情報は保護対象とならない)が条件である。そして秘密情報として保護対象となるためにはその情報は極秘扱いにする必要があることが条件とされる。
 他の知的財産権と異なり、秘密情報はそれ自体を「保有」できる制定法上の権利ではない(コピーライトの保護対象となるよう秘密情報を記録することはしばしばある)。その代わり当事者は秘密情報と接する際、一定の権利と義務に従うことを余儀なくされる。秘密義務が明言された状況で情報が開示・取得された場合、情報の受領者は守秘義務を負うことになる。よって秘密情報、または秘密と認識すべき情報を受領した場合、守秘義務に応じてその情報の内容を公開してはならない。秘密であるのかどうか明確でない状況の場合、当事者はその情報が秘密情報として保たれることを契約上同意し、それにより補足的な契約上の義務が生ずる。
 
1-6-1. 秘密情報と被雇用者
 判例法は被雇用者が雇用状況において得る情報を三種に分類している。
(1)公の情報源から容易に得ることが可能な些細な性質の情報
(2)職務の一部として学んだ情報で、被雇用者の記憶に刻み込まれ、被雇用者の技能、知識の一部を構成する情報
(3)その企業のみが保有する企業秘密
 
 第一、第二の情報は、雇用主の秘密情報として、一般的に保護されるものではない。なぜなら、これらを秘密情報としたなら、被雇用者が新しい仕事を探す際に不合理な制限を課してしまうからである。第三の情報のみ、ある企業での職務を去った後での使用を禁止される情報である。これに関連する訴訟は多い。特定商品の顧客企業に関する情報は保護対象外とするという判決がある。また雇用者の工場や設備の特長に関する被雇用者の記憶は秘密情報ではないと判断されたこともある。これらは被雇用者が職務期間に得た技能や知識の一部であると見なされたのである。
 一般基準として、裁判所が取る姿勢にはある種の道徳的指針が見られる。もしもある職務を去った後にその職務期間に得た情報を利用するのは不正であるとされるなら、法廷はそれらの情報は企業秘密であるとして該当情報の保護を行う。ある情報が雇用主による規制対象となりうるかどうか判断するにあたって指針となるファクターは以下の通りである:
●被雇用者が自由に扱える一般情報と、該当情報をいかに区別できるか。判例法によれば、具体的な定式や技術仕様は企業秘密として保護の対象とできるが、作業工程の知識や商品の特徴は、被雇用者の知識や技能と明確に区別できない。
●雇用者がいかに秘密性を強調したか。特定情報に関しそれが秘密であることを示すため雇用主が特別手段を取った場合(例えばその情報へのアクセスを制限する等)、一般的にその情報は企業秘密として扱われなければならない。
●被雇用者の役職。日常的にその企業の秘密情報に接し、その情報が企業秘密であるかどうか承知しているはずの上級職被雇用者にはより高度な基準が要求される。
 
 雇用主は雇用契約上に制約事項を設けることで、職務を去った被雇用者が秘密情報を開示することを禁じることができる。ただし裁判所はそれら契約に関し、それらが道理に適っており、職業を拘束しない限りに於いて執行する。従って裁判所は、雇用契約に記された制約にかかわらず、上記の指針が示す見解を適用するであろう。
 被雇用者を通じて競合企業に秘密情報が漏洩することを防ぐために用いられる手段は、引き抜き禁止・競業禁止条項を盛り込むことである。これらは競合企業との取り決めに盛り込むことも可能である(例えば合弁事業契約の場合)。これにより一定の期間内において、競合企業がプロジェクトに関わった被雇用者を引き抜いたり雇用することを禁止できる。この種の条項は該当する被雇用者にとって厳しい処置であり(被雇用者は職務の移動を比較的自由に行える権利を保有しているはず、という理解の下に)、従って裁判所は道理に適った範囲に限りこれらの義務を執行する。裁判所によるとこれらの束縛、制限が道理に適ったものとなるためには、その地理的有効範囲、期限、市場が限定されていなければならない。また雇用契約上である企業の職務を去った後の一定期間、競合企業に就職しないことを義務づける条項を含めることも可能である。これにはいくつかの方法がある。そのうち代表的なひとつは、退職通知提出後、被雇用者を自宅に待機させることを企業が強いる方法で、“garden leaveガーデン・リーブ”と呼ばれている(これによりその被雇用者は関連プロジェクトと接触がない期間を過ごすことになる)。
 
1-6-2. 守秘義務を明記した雇用契約書
 1-6-1で述べた、雇用主が雇用契約上に制約事項を設けることで、職務を去った被雇用者が秘密情報を開示することを禁じている具体的な雇用契約書の一文を下記に紹介する。
 
機密情報と社有書類
 被雇用者は適切な業務上の義務執行中もしくは委員会による明白な同意書を伴う場合を除いた雇用期間中、及び雇用期間終了後有効な裁判所の命に基づく場合を除き、いかなる場合であっても機密情報を自己の目的、または雇用主とその関連会社の目的以外のために、いかなる人物・会社・営利団体・その他の組織への漏洩と情報伝達や不注意と怠慢による不許可の開示を行わない。これらの制限は、被雇用者による本合意事項への違反もしくは不履行に起因しない一般に開示される情報には適用されない。
 被雇用者は雇用主とその関連会社の営業に関わる書籍・ノート・メモ書・レコード・顧客リスト・サプライヤーリスト・従業員リスト・書簡・書類・コンピューター・ディスク・テープ・データ表・コード・設計と設計図ほか一切の物品とそれらの写しは雇用主及びその関連組織の所有財産であることを認識し、要求に応じてまたは雇用期間終了時には必ずそれらを雇用主もしくはその関連会社に提出・返却したことを雇用主の指定する委員会により確認する。同時に被雇用者が電子情報による書類を個人的なコンピューターに保有している場合はそれらを印刷、提出のち全ての情報がコンピューターより消去され、いかなる形態でもそれらの情報の複製が存在しないことを雇用主の指定する委員会により確認する。
 
発明及びその他の知的財産
 両者(雇用主と被雇用者)は被雇用者が業務上の義務執行中に発明及びその他の知的財産を創造するであろうことを予測し、両者は敬意をもってその被雇用者は雇用主の更なる利権に特別な責任を持つ事に同意する。被雇用者が雇用期間中に創造もしくは発見した雇用主もしくはその関連会社の営業に関連するか影響する、または営業に関連して利用・応用が可能な、いかなる発明、改良、設計、工程、情報、コピーライト、商標、(特許申請如何に関わらず)は直ちに雇用主に報告され雇用主もしくは雇用主が指定する関連会社の絶対所有財産となる。(Patents Acts 1977第39〜43章)
 被雇用者は雇用主の要請により雇用主もしくはその指定関連会社の費用により、英連合王国内または世界のその他の地域における知的財産権ための特許申請またその他の保護・登録申請をするか、雇用主とその関連会社が行う申請に協力する。被雇用者は特許申請や保護・登録の申請のために必要な全ての方法・手段を履行し、権利獲得後は唯一絶対の利権者である雇用主もしくはその関連会社、または雇用主が特定する第三者のみに全権利が帰属する。
 被雇用者はPatents Act 1988第IV章パート1に基づき、雇用期間中の成果による既存もしくは将来的な商標に関わる業務責任者の著作権を最終的に無条件で世界のどの地域であれ権利行使可能な地域においての一切の権利を放棄する。(これは‘Patent Act 第77章で与えられた権利;その成果の著者としての公認’と‘Patent Act 第80章で与えられた権利;侮蔑的な扱いを受けない’を無制限に含む)
 被雇用者はこの第16節にある全ての利益を雇用主に与える目的で最終的に雇用主をあらゆる手段・方法を実行するため自身の名の慣用を認めた代理人と指定する。あらゆる手段と実行はこの同意書によって与えられた権限内に留まるとする第三者宛に雇用主の役員もしくは総務部長により署名された証明書は決定的な証明となる。
 (カッコ)内の一節はPatent Act 1977第39〜43章のもとに、被雇用者と雇用主の権利を制限するものと解釈されるものではない。
 
* Patent Act 1977第39〜43章は発明の利権が被雇用者と雇用主の間でいかなる条件の下どちらに帰属するか、また雇用主に大きな利益を与える発明をした被雇用者の権利について定めている。
 
Garden Leave(自宅待機)
 被雇用者もしくは雇用主の一方から他方へ雇用期間終了の通知がなされた場合、雇用主は被雇用者に通知期間中の業務への不参加を要求する絶対権利を有する。ただし被雇用者はその期間中、定められた業務時間に相当する時間は常に業務へ参加が可能な状態でなければならない。もし雇用主がこの権利を執行した場合、被雇用者は要請がない限りその職場及び雇用主とその関連会社の事業所内に立ち入る事は禁止される。被雇用者はこの期間、雇用主の書面での許可無しにはいかなる顧客、サプライヤー、他の被雇用者と連絡を取ることは出来ない。また、この点に対し陳情・陳述を申し立てることは出来ない。被雇用者はまた雇用主の専門分野の顧問(弁護士や計理士等)、及び銀行家と連絡を取ることは許されない。通知期間中に雇用主は被雇用者に雇用主に帰属する全ての用品と財産を返却する要請を行うであろう。通知期間中に雇用主は被雇用者に全ての経営権限及び地位を辞するよう要請するであろう。被雇用者はこの通知期間中は雇用期間中と同様の給付(と手当)全額を引き続き受け取ることが出来る。
 
1-6-3. 秘密情報と第三者
 英国法は企業間の秘密情報維持に関しても被雇用者に対するのと同様な条項を設けている(すなわち、保護の対象となる情報は妥当な秘密性を保有すべきであるという条件)。しかしこの場合の情報受領者は法人であって、その権利を守ることに対する公益性は個人である被雇用者の場合と比べて低い(被雇用者の場合、裁判所は被雇用者が自分の経験を伸ばし、雇用主が誰であるかにかかわらず、職務に付きその経験を活かす権利を認めるが、企業の場合、情報受領者は個別の事業体であり、従って特異な状況を除いては、同情に値する理由が必ずしも存在しないからである)。
 従って裁判所は、秘密と見なされるべき情報を企業が契約書に明記した場合にそれを認め、秘密情報の範囲は、個人を対象とする場合に認められているものよりはるかに広い。一般的に秘密保持の合意は以下を含む:
○秘密であるとされる情報の特定(提示情報の全体が対象となることもあるし、秘密であると明記された情報のみが対象となることもある)
○情報の利用用途の明記(例えば特定プロジェクトのみに限る、第三者に公開しない、複製しない、特定の場所から移動しない)
○守秘義務が適用される期間の記載(この期間は、通常、関連技術が時代遅れとなる時期を見越して設定される)
 
 一般的に秘密保持合意、秘密保持条項は、当事者間で情報が共有される場合に契約に盛り込まれる(知的財産のライセンス供与、合弁事業契約、点検・納入契約等)。また、いずれかの当事者が秘密情報に接する時、秘密保持の合意は当然のものとして用いられるべきである(例えば、企業の敷地内に立ち入るいかなる当事者に対し、事前に秘密保持の合意に署名することを要求する企業もある)。こうした「機密管理」により、訪問者は守秘義務を意識するだけでなく(訪問者が代表する企業、ないし訪問者個人に)法的義務が課せられることになる。
 強制措置が必要となった際、該当制限に関する明確な監査証跡が残されているよう全ての秘密情報開示に際し、情報受領者の身元、交わされた関連契約、その他の関連情報が記録されるべきである。
 
1-6-4. 船舶業に於ける秘密情報の適用
 いかに企業が自社の知的財産権を巧みに保護しようとも、被雇用者が職務を去る時、重要な情報やノウハウをともに持ち去る危険性が存在する。造船業のように従業員がある契約から次の契約へ転職が比較的慣例である業界では、そのリスクはとりわけ高い。
 合弁事業が多く行われる場合も同じ問題が起こる。あるプロジェクトに関しては、当事者間で秘密情報を開示しても、片方の当事者が別のプロジェクトに移った後でその情報を利用することを望まないことがある。
 守秘義務は、従業員を通じて(または他の手段で)情報が流出するのを防ぐ最も重要な方法である。しかしこの分野の法律は曖昧で、(国際会議や欧州指令の結果生じる知的財産法とは異なり)司法管轄区によって異なる。このため守秘義務を強制するのは困難であるが、同制度が実際的、法的保護のため便利な枠組みを提供しうることは確かである。情報へのアクセス制限、秘密情報である旨の明記、秘密保持合意の締結等の物的管理措置は、法的執行力こそ不確実であれ、使い方によっては実践的な利用価値を持ちうるものである。
 秘密情報の保護、活用に当たって、考慮すべき問題点についてはケーススタディー8において、種別毎に分類して示した。







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