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国際海事情報シリーズ84 欧州造船業を巡る知的財産権とその保護-英国を中心として-

 事業名 造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業
 団体名 シップ・アンド・オーシャン財団  


3. 造船プロセスにおける知的財産保護
 船舶の設計、建造、経営は大規模な事業であり複数の当事者の参加を必要とする。当レポートは以下に提示した建造工程が英国での一般的な造船プロセスに適用されると前提して進めてゆく。
 船主またはそれに代わる当事者が造船所へ船舶の建造を依頼することによりプロジェクトはスタートする。造船所はプロジェクト・マネージャー兼元請企業として正式な活動を開始する。つまり造船所は建造工程をサプライチェーンにおき、それぞれが任務を担当する一連の当事者がしかるべき時に召集され、船主の要求に応じて船舶の完成が達成するように業務を取りはからうことになる。
 造船所自身が全ての建造工程を担うことは稀である。「出来合い」の非常に標準的な設計でない限り、造船所は造船技師(または造船技師のチーム)を雇い、船主の要望に応じた設計の詳細を行う。
 船殻と船舶上部構造の建造に関しては造船所が責任を負うこともあるが、内部構造は専門の下請企業によって組み立てられ、またそれらの部品については孫請業者が提供する。
 銀行やその他の金融機関がプロジェクトの資金を調達し、船舶の進水後、P&Iクラブ等保険組合が保険契約をする。船級協会の役割は建造工程でガイドラインを提示するほか、建造の最終段階において保険会社が求める船舶の耐航性を確認する「健康証明書」を発行することである。
 最後に船舶が進水されその耐航性が確認されたら、船主は船舶の経営に関する契約を海運事業者と結ぶ。海運事業者は日常レベルで船舶の経営と保全に当たる。
 総括的なプロジェクト・マネージャーとして、造船所(または建造の管理に当たる当事者)はこれら全工程を完全に把握していることが不可欠である。
 
3-1. 造船プロセスにおける情報の流れ
 下記の図は、造船工程に於ける情報開示の様々なインターフェースを示すものである。
 
 
 言うまでもなく、情報の共有は造船所、造船技師、機材メーカー、請負企業の間で不可欠である。建造の資金を調達するために船主は船舶の設計に関する技術的情報を受領し、それを金融業者へ提出する必要がある。また造船所は建造の各工程がガイドラインや条件に沿って行われていることを保証するため、船級協会とも密接な関係を持つことになるはずである。
 建造工程では大量の情報が開示され、共同作業が要求される。従って実効性のある情報管理が行われなかった場合、作業中に発生した知的財産権は複製その他の違反行為、あるいは同プロジェクト内での使用に供する、しないに拘わらず不注意による外部漏洩のリスクに晒されることになる。
 船舶の建造の依頼主は船主であっても、船舶の部品を調達する納入業者を雇う責任者は造船所である。
 
3-2. 造船所の役割
 前述の通り造船所は包括的なプロジェクト・マネージャーとして活動する場合が多く、建造工程において中心的な役割を果たす。ある造船所が特定の種類の船舶の建造で特に有名になることも多く、船主が自らの保有船隊の拡充を図る際に同種の船舶の建造で有名な同じ造船所に定期的に繰り返して発注することになる場合も多い。
 造船所が自らがそれまでに開発してきた標準設計に基づいて、極めて標準化された「出来合い」船を供給する場合もある。あるいは造船所は自前で船舶設計の専門家を雇ったり、第三者のライセンス下で船舶を建造する(LNGタンカーの場合)こともある。LNGタンカーに関して生じる権利のくわしい例は、ケーススタディー4に挙げた。
 
3-2-1. 知的財産に関する諸問題
 造船所は情報が集散する「ハブ」である。造船所は、重要な情報の集積・分散の舞台となり、納入業者間の関係を調整する役割を果たすことになりやすい。それゆえ秘密情報の漏洩防止が最重要課題の一つとなる。これに加えて造船所の側ではその設計に基づいて船舶を建造することが許可されていること、そしてすべての納入業者が建造にあたり供給する部品について知的財産権の面で必要なライセンスを供与していること、あるいは獲得済みであることを確認しておくことが必要になる。
 
3-2-2. 知的財産を最大化する工夫
 造船所は建造工程の中心的な管理者であり、それゆえ船舶建造にあたるすべての当事者を対象に守秘義務に関する意識を徹底させることは最重要の課題である。これは船舶建造に参加するすべての当事者に対し守秘合意に署名させ造船所の周囲に適切な注意書きを張り出すことにより行われる。
 造船所はまた、納入業者間の連絡役となり、適切な情報が交換されていること、そしてそうした情報の使用許可が与えられていることを確認する役割を負うこともありうる。
 また文書、報告書、その他の書類の監査証跡を適切な形で残すとともに、船舶のどの部分をどの当事者が担当したのか等に関する記録を残すという点に関して、造船所は重要な役割を果たすことができるだろう。
 
3-3. 造船技師の役割
 造船技師は、船主の要望に応じて、船舶の詳細な意匠・設計を担当する。これらの設計は、CADソフトウェアで作成されるのが普通である。
 造船所が自ら造船技師を雇用する場合もあるが、船舶を専門にする工業デザイン事務所に設計を発注する形が一般的である。大規模な船舶の建造プロジェクトの場合には、複数の造船技師ないしは設計事務所が設計に参加するのが普通である。主任技師の監理の下で、それぞれ船舶の特定部分の設計を担当する技師のチームが構成される場合もある。
 
3-3-1. 知的財産に関する諸問題
 船舶の全体(またはその主要部分)に関するデザインスケッチ・図面に適用される最も重要な知的財産権は、コピーライトであろう。
 先に述べたようにコピーライトは一般にその作品の作者に帰属し続ける。船舶設計の場合コピーライトの所有者は以下のいずれかになる。
●当該の造船技師(または造船技師のチーム)。
●当該技師が第三者企業ないしは提携先企業に雇用されている場合には、その主体。
●当該技師が造船所に雇用されている場合には、その造船所。
 
 デザインと設計に関して生じるコピーライトのより詳細な記述については、ケーススタディー5を参照されたい。
 関係する知的財産権がプロジェクトに参加する当事者らに譲渡(ないしはライセンス供与)され、これをプロジェクトに利用することが可能であることを造船所が確認できるようにコピーライト保有者を特定しておくことが重要である。
 設計を利用する権利が明示的に扱われていない場合には、問題が生じることがある。特にプロジェクトが当初の予定とは違う方向に発展した場合や、他の当事者が後になって関係してきた場合にはそうである。例えばある造船技師がある目的で設計図を作成したが、その後この技師がプロジェクトから離脱したり、設計図の利用目的が変更になった場合には、この技師は設計図の使用継続を拒否することができる。設計図のコピーライト保有者がこの造船技師であり、この設計図の利用目的を定めた明確なライセンスが供与されていない場合には、造船技師は自らが所有するコピーライトを行使し、この設計図の新規利用または継続利用を妨げることができる。その場合はプロジェクトの進行に顕著な遅れが生じることになりかねず、またそのために費用が発生する恐れがある。
 造船所はまた、造船技師が将来のプロジェクトにおいて設計図(またはその一部)を再利用することに利益があるのかどうかを考慮しておくべきであろう。造船所がその設計図の開発に多額の金を支払っている場合には、造船技師がその設計図にコピーライトを所有しているとはいえ、造船所はその造船技師が設計図を再利用することを望まないだろう。反対に造船所は投資に見合う利益を得られる限りで(例えばロイヤルティー等の形で)、設計図の再利用に同意することもありうる。
 造船所と造船技師との間の契約では、意匠・設計における権利の所有者と利用に関して、明確に定めておくことが必要である。
 
3-3-2. 知的財産を最大化する手法
 技術図面における権利の所有者が誰であるのかにかかわりなく、造船技師は、全ての技術的な図面について、担当した造船技師による作成日と署名を入れてその複製を保管するべきである。デザインが電子的手段により作成された場合にはデジタル署名と認証ソフトウェアを用いて、デジタル署名と日付を電子媒体による図面に刻印し、作成日に関する疑念が一切生じないようにすることが可能である。すべての当事者は、知的財産権の保有者を指定する(またはライセンス供与に関する)契約書の謄本を保管するべきである。
 
3-4. 船級協会の役割
 船級協会は船舶の設計、建造、並びに保守点検の標準として、規則や規定を適用する役割を担う。造船技師は船舶の設計のガイドラインとして、設計から建造工程に至る各段階でそうした規則や規定を用いる。船級協会は船舶の設計・建造過程の各段階において特定の側面を検査の対象とすることで造船に関与する。船級協会が発行する船級証書は、特定の船舶の保険を引き受ける際のリスクを評価するために保険会社により用いられる。
 上述のように、船級協会に所属する検査員は、ガイドラインを示し、設計及び建造過程において生じる諸問題への解決法を示唆するという形で、プロジェクトのコンサルタントとして活動する。
 
3-4-1. 知的財産に関する諸問題
 船級協会はしばしば設計・建造工程において相談役もしくは問題解決者として協力を要請される。船級協会が示した解決法はいずれも造船所に対して権利を付与する旨の約定が特に存在しない場合には(それが船級協会の部外秘の情報であり、またはその解決法に知的財産権が存在している限りにおいて)船級協会がその所有権を保持することになる。
 造船所の側から見るとこうした状況は最適なものであるとは言えないが、船級協会の側は自らが示唆した解決法に関する所有権を譲渡することには余り積極的ではないはずだ。船級協会の事業は、船舶の設計、建造、運航に関する知識に依存しており、そうした知識に制限を加えることはそれがいかなるものであれ船級協会の事業に根本的な形で制限を加えることになるためである。
 ただし造船所は船級協会からその旨の許可を特に取り付けることにより、船級協会が示唆した解決法に関する知的財産権を再利用する正式な資格を確保することが可能である。このためには特定の船舶の建造における当該解決法の使用のみならず、同じ方式で当該造船所が今後に建造することになる他の船舶において当該解決法を使用することまでをカバーした許可とすることが必要である。
 
3-4-2. 知的財産を最大化する工夫
 船級協会が訴訟を起こした場合、示唆された解決法の使用は不可能になる可能性がある。これを避けるために造船所は適切なライセンスと許可を得ておくべきだ。それはまた自らの権利と第三者の権利の特定を容易にし、完成した船舶に拘わる知的財産権の所有者をはっきりさせるうえでの助けにもなるだろう。
 
3-5. 工法、処理、塗装
 造船業において特に重要なのが、腐食を防ぐ目的で、船舶の壁面(内側及び外側)を処理するために用いられる塗料やその他の処理剤の開発である。これらの処理剤及び塗料は、その納入業者により造船所とは別に開発されるものである。
 
3-5-1. 知的財産に関する諸問題
 工法、処理及び塗装に関して最も重要な知的財産権は恐らく特許権であろう。革新的な塗装剤とそれを用いた加工方法の両方が特許権による保護の対象になりうる。
 納入業者にとっては自らが開発した処理剤及び塗料について、秘密保持の適切な義務を定めて、独自開発の技術が一般的な技術となって、特許権による保護の対象となるための要件である新規性が失われないようにすることが大切である。
 船舶に塗装が施される際に、造船所にとっては用いられる塗装ないしは処理に係る特許権を使用する上で、施行業者が適切なライセンスを確保していることを確認しておくことが大切である。また造船所が自前で処理を行う場合には、造船所がこの工程を実行する上で必要なライセンスを揃えておくことが大切である。
 
3-5-2. 知的財産を最適化する工夫
 各造船所は塗装並びに処理に関して(塗料の配合並びに塗布の方法の両方について)独自の革新的なアイディアを開発している。このため造船所は特許権による保護を得ることを望む可能性があるが、その場合そうした技術革新を秘密保持に関する合意の対象として、造船所により秘密が守られる条件を整えなければならない。
 これとは別に、造船所がブランドマークやロゴのペイントを求められた場合には、商標法と詐称通用が適用されうる。そのため造船所はそうした商標やブランドマークの所有者から、適切な使用権が得られているのかを確認しなければならない。造船所は特にはっきりとそれとわかり、一般に競合企業(あるいは、当該産業部門の内部に属する他の当事者)に結びつけられているところの色の配置やブランドマークを、適切な同意を得ていない限りは「複製」しないよう配慮しなければならない。
 
3-6. 舶用メーカーの役割
 船殻や船舶上部構造に加えて、船舶はその他の機器を集めて建造される。エンジンルームの機械設備、燃料、水、エアー等のための船回りの配管、電力供給と通信用のケーブル並びにITシステム、及び船上で使われるその他の電機・機械システムがそれである。
 処理と塗装については、通常第三者の納入業者が多くの部品を供給する。本レポートはこうした状況に基づいている。
 
3-6-1. 知的財産に関する諸問題
 知的財産権のすべて(秘密保持の義務を含む)は、機器についてはそれぞれの部品の性質に応じて適用される。造船所はそうした知的財産権の所有者から、意図した通りに当該船舶についてそれを使用することを認める適切な使用権を得ていることを確認しなければならない。
 ここで特筆すべきことは(恐らくは船舶を所有するというプロセスのその他の側面にとっても同様であるが)知的財産権が主に国レベルのものであるという点である。それゆえにある国においては特定の特許権があるが、別の国ではないということが起こりうる。ある国で特許権の対象となっている技術を輸入ないしは使用することは、その特許権の所有者から許可を得ていない限り、特許権の侵害を構成しうる。このことは当該船舶がある国で取得されている特許権(ないしは他の知的財産権)の侵害を構成する場合には、当該船舶がその国の領海内に入ることができないということを意味しうる。こうした状況から生じる問題の詳細な例を、ケーススタディー6において示した。
 
3-6-2. 知的財産を最大化する工夫
 知的財産権と船舶機器は一般にはそのメーカー(ないしはその使用権の供与を受けた者)が所有している。しかし造船所は部品組立の設計がその造船所によりなされた場合には、多様な機器の組立に関する知的財産権を獲得することができる。機器の組立に関する知的財産権が厳密な意味では存在していないとはいえ、造船所は組立に関する特に革新的な創意を持つ場合があり、造船所がそれを、秘密の情報と考え、これを保護する(そして、競合企業に対する秘密の漏洩を確かな形で防止する)ことを望む場合がありうる。そのため、秘密保持の義務を課すための適切な諸措置を採用する必要がある。
 
3-7. 仲介業者の役割
 上述の造船工程における主要な当事者に加えて、付加価値サービスを供給する多くの当事者が工程に関与する。
 造船技師と船級協会が耐航性を巡り船舶を設計・検査する過程で主要な役割を担うのとは別に、これらの当事者らは特定の設計上の問題に解決法を供給する上で、別々にコンサルタントとして関与することがありうる。
 仲介業者はまた、造船工程に関与する可能性がある。この点では、商標・ブランド権が重要になる。これらの権利の適用は、各プロジェクトにおいて個別に必要となる要求事項に大きく依存している(ここでは、ブランド/広告キャンペーンを開始する時に考慮すべきすべての諸問題を列挙することはしない)。しかし、関係するすべての国において適切な法的保護が確保されていることを確認するため、広告ないしはブランドに関するコンサルタントらの助力を仰ぐ必要があり、また採用されたブランドや広告が、第三者のいかなる権利をも侵害していないということをチェックする必要がある。
 また、金融機関、保険会社、並びに金融業において中間業者として活動するブローカーは造船工程に関する情報を得てそれに関する他の調査を実施することになる。
 
3-7-1. 知的財産権に関する諸問題
 付加価値サービスに関して、どの知的財産権が適用されるのかを決めるのは極めて困難である。特に注意すべきなのは特定の任務(例えば、広告、マーケティング等)の遂行を造船所に依頼された第三者はいずれも、造船所のブランド(これには、マークの質と評判とを保持するための制限措置を加える必要がある)を使用するために、適切な権利を付与されていなければならないという点である。







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