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国際海事情報シリーズ84 欧州造船業を巡る知的財産権とその保護-英国を中心として-

 事業名 造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業
 団体名 シップ・アンド・オーシャン財団  


4. ケーススタディー
4-1. ケーススタディー1 特許の例 (P.31参照
 船舶の両舷に一定の間隔を置いて設置した位置から水中にガスを噴出して気泡を発生させ、それにより移動中の水抵抗を軽減する方法に関する特許権。
 この特許は、以下の目的を可能にする技術を供給することを目的とする。
1. 水中に噴出されるガスの必要量を最小限に留めつつ抵抗の実質的な軽減をもたらす。
2. 乱流境界層の内部に微小な気泡を保持する。特許明細書において、これらの目的と、この発明に係る技術とが説明されている。
 
 この特許は、特許クレームにおいて示されたところのプロダクトの製造並びにプロセスの使用について、独占的な権利を特許所有者に与えるものである。この特許は欧州特許であるがゆえ、欧州特許条約の調印国のうち、当該特許が指定した諸国の全てで、保護を受けることができる。この特許の所有者はこの特許登録がカバーするすべての国の領土内において、特許の対象となるプロダクトの製造及びプロセスの使用を、一切の第三者に対して禁じることができる。しかしその他の国においては、その旨を定めた別な特許を所有していない限り、この特許の所有者は、特許の使用ないしは特許を受けた製品の使用を禁止することはできない。
 特許が侵害された場所では、特許の所有者は、(特許の対象である)プロダクト並びに特許の対象であるプロセスを利用したプロダクトの引き渡しまたは廃棄、並びに、損害賠償または収益の支払いを命じることができる。
 
4-2. ケーススタディー2 商標の例 (P.33〜34参照
 当登録の下で保護される商標は、登録書類に示した配色における登録済みのイメージである。このマークはそれが物品の運輸、梱包並びに貯蔵、及び旅行手配の各役務に関係して使用される場合にのみ、保護の対象になる。商標の所有者であるArnold M. M. Moller、Jess Soderberg、Knud E. Studkjaer、Kjeld Fjeldgaard、Tommy Thomsenは、当該イメージが、役務の提供者が誰であるのかを示す手段として用いられる場合に、上記の役務に関するこのイメージの使用を一切の第三者に対して禁じる独占的な権利を保有する。当該イメージの保護期間は、登録日から起算して10年間であり、その後は更新ごとに10年間である。従って所有者がイメージの保護の継続を希望する場合には、2007年11月21日に商標登録を更新する必要がある。
 この商標の所有者は同等ないしは類似の商品及び役務に関して当該商標を使用することを、第三者に対して禁止することができる。また同等の商品または役務に類似の商標を使用することを禁じることができる。所有者はまた比較広告において自身に不当な言及がなされるのを禁止することもできる。
 この商標は英国において登録された。そのため上記の役務に関する当該商標の使用について保護がなされるのは英国においてのみである。この商標は英国外ではいかなる保護を受けることもない。
 
4-3. ケーススタディー3 意匠登録の例 (P.33〜34参照
 1-3-5章で取り上げた船殻の意匠の所有者は、第三者に対して、いかなるプロダクトにもこの意匠を使用することを禁止することができる。これは船舶への使用には限定されないが、しかし船舶以外にこうした特定の意匠を使用できる状況を考えるのは難しい。
 所有者は、申請日から25年間にわたり、権利の保護を受けることができる。保護が有効であるのは英国国内のみである。特許権の場合と同様、英国外でのこの意匠の使用は、英国外での意匠登録によってのみ禁止することが可能であるが、欧州共同体(EC)の意匠登録権を用いれば、EC域内を通じた保護を受けることもできる。
 所有者は、自らの意匠に対する違反行為により引き起こされた損失について、損害賠償を受けることができる。また将来違反行為が起こるのを防止するための命令をすることができる。また、違反した商品の引き渡しを要求することができる。
 
4-4. ケーススタディー4 LNG船の意匠に関係する権利
 LNG船は、液化天然ガス(LNG)の運搬を目的とするLNG関連設備の一部を成すものである。このプロセスを通じて、ガスの液化、運搬、並びに再液化が船上でなされ、適切な手段を通じて荷降しがなされる。LNG関連では、このプロセスの各段階をカバーする2つのタイプの設備が開発されてきた。
 現在のところLNG船は総合的なエネルギー供給業、とりわけLNG運搬に必要なより広範な海上プラットフォーム設備に関わる当事者らにより設計されてきた。LNG船は海上プラットフォーム設備とのインターフェースを確保しなければならない。つまりLNG船の設計はそうした外部的な要因を考慮に入れなければならないということである。
 それゆえ造船所はLNG船の設計については「プロジェクト・マネージャー」の役割を果たしてきておらず、より広範な海上プラットフォーム設備の造船技師が作成した設計を採用し、この設計に沿って船舶を建造してきた。
 この場合LNG船の設計における知的財産権はプラットフォーム設備の全体を造ったエネルギー会社ないしはエンジニアリング会社に帰属する。LNGに必要なすべての要素(その限りにおいて、船舶向けの一般的な地上施設へのインパクトを含む)は造船技師によって解決されるが、造船技師はその際に下請企業や他の第三者から得たインプットを利用している可能性がある。造船技師は他の第三者からLNG船をそうした設計に基づいて建造することを造船所に許可するための権利を得ている。
 これに関連する知的財産権には意匠中の革新的な技術的側面に関する特許権、意匠権、コピーライト、並びに欧州においては、データベース権が含まれる。造船技師はまた当該意匠に関係するノウハウやその他の情報を持っているが、彼はこれを秘密の情報とみなして造船所にこれを供給する際には秘密保持の義務を課すことになる。
 造船所は当該設計に従ってLNG船を建造する許可を与えるために必要な権利に関して、造船技師に代理人としての役割を期待している(つまり、造船技師がすべての適切な権利を獲得し、当該設計に従って船舶を建造するにあたり造船所はいかなる第三者の権利をも侵害していないようにすることを期待している)。
 反対に、造船技師の側は、造船所が当該設計に従って船舶を建造する可能性に制限を加えるであろうし、疑いなく、当該設計に関係して造船所からロイヤルティーないしは他の利益を受け取ることになる。
 造船技師が、コンサルティングサービスの形で技術鑑定を供給したり、さらに支援ないしは全面的な所属の移転を伴う形で、適切なスキルを持つ従業員を提供することがありうる。造船技師は疑いなく、造船技師が保有する秘密の情報に関して、こうした従業員に対して制約を課し、どの程度まで秘密を造船所に開示することができるかを定めることになる。造船所の側では、造船所に立ち入るこれらのスタッフ(ないしは、造船技師のその他の代理人)に対して、秘密保持の義務を課すことを求めることがありうる。
 
4-5. ケーススタディー5 造船技師のコピーライト
 造船技師ないしは造船技師のチームは、船舶の設計図面を作成することにより、コピーライト作品を創造することになる。設計明細図書におけるコピーライトは、1988年のコピーライト・意匠権・特許権法に基づいて、芸術的作品としての保護を受けられる。この作品のコピーライトを所有する者は、まず第一に造船技師であるが、この作品が雇用契約や委託契約に基づき創造された場合には、雇用主が所有者になる。委託契約の場合には、状況に応じて委託者がコピーライトの所有者になる。
 コピーライト作品は、所有物として扱われ、それゆえ、所有者である造船技師は、これをライセンス供与したり、譲渡その他の処理をおこなうことができる。ある者が造船技師に船舶の設計を委託する場合、当該造船技師のコピーライトを、委託者を指定して供与する旨の書状を取り付けておくことが賢明である。こうしておけば作品のコピーライトが委託者に移転し、これによりこのコピーライトを適切と思われるやり方で取扱い、自らの利益となる形で作品を利用することが可能になる。
 芸術的作品のコピーライトは、作者の死後70年間にわたり有効である。
 
4-6. ケーススタディー6 船舶の特許権に由来する係争ケース
 海運業における特許権適用の実際例としては、ステナ(Stena Redeir Aktibolag)とアイリッシュ・フェリーズ社の間の係争(2003年)が挙げられる。この事件では、アイリッシュ・フェリーズが保有するカタマラン・フェリーの構造が、ステナ社が保有する特許を侵害していた。
Stena Rederi Aktiebolag vs Irish Ferries Ltd.
高速カタマラン格子型特殊構造をめぐる係争(2003年)
原告:Stena Rederi Aktiebolag
被告:Irish Ferries Ltd
 
 原告はマルチハルの船舶用特殊構造に関する特許を英国で登録している。その特許対象は特にカタマランタイプの船舶の曲がりやねじれを軽減するために連続した格子型の梁を組み合わせた特殊構造である。
 被告はダブリン(アイルランド)と北ウェールズ(英)のホリーヘッド間を結ぶフェリー運航事業を同特殊構造を用いたタイプの高速カタマランで行った。
 原告は被告が原告の許可無しに原告が特許登録している特殊構造を用いた船舶を運航させ、原告の特許権を侵害したとして提訴。被告の高速カタマランの構造は原告が特許登録している技術にあたるとして公判が開かれた。
 被告は「船舶が一時的もしくは意図せずに英国の領海に進入した場合に、関連の船舶の船体または機械、索具、装置、その他の付属物が製品や工程に不可欠という限定された使用のために構成される物」として使用される場合は被告のフェリーが特許権侵害に該当しない(Patents Act 1977 s60(5)(d))*という前提に頼る方針であった。
 被告は該当のダブリンとホリーヘッド間を運航するカタマランは英国領海に一時的のみ進入し、英国領海には3時間しか滞在しなかったと主張。法廷へ該当船舶の「英国領海への一時的な進入」状況はPatents Act 1977 s60(5)(d)の下で特許権侵害には当らないと抗弁した。
 法廷は被告の高速カタマランが原告が有する特許権を侵害しているとしながら、該当の高速カタマランが英国領海内に進入する時は常に一時的な(数時間以内)進入であり、この一時進入が継続的に行われても一時的な進入であることに変わりない。よって被告のPatents Act 1977 s60(5)(d)に基づく抗弁を認めるとした。
 
 この判決は英国内での知的財産権という地域的な効果を示すだけでなく知的財産保護の価値についても示唆している。この判決をうけてアイリッシュ・フェリーズは該当の船舶を‘一時的’以外にステナの特許を侵害せずに英国領海に進入できなくなった。これにより当該カタマランが航海可能なルートは、特許権の侵害に当たらない範囲に厳しく制限されることになった。つまりステナ社の特許権取得が、アイリッシュ・フェリーズ社のオペレーションの商業面に決定的なインパクトを与えたことになる。
 
4-7. ケーススタディー7 サポートサービスの供給
 船舶の設計、建造、並びに艤装仕上げに至る多くの場面において修繕・保全作業が臨時に必要となる場合がある。造船所、ないしは技術やノウハウ等の各所有権者が自前でそうした作業を行う場合もあるが、サポートサービスとして下請会社(特に外国において)に依頼することが多い。
 サポートサービスの依頼先となる下請企業の選定においては、造船所ないしは他の技術の所有権者は、その下請企業にはサポートサービスを供給するだけの十分なスキルがあり、かつ下請企業が関連技術とその保全作業に関する十分な情報を得ていることを確認することが必要となる。そして造船所ないしは他の技術の所有権者は、一般に下請企業の側が特定のスタンダードに基づいたサポートサービスを供給し、所要の情報、ノウハウ、並びに装備を(利用可能なものとして)随時提供するという内容の下請発注契約を結ぶことになる。造船所ないしは技術所有権者は、どの程度スタンダードを要求するかを決める必要がある。造船所は例えば、保全の手法を常に最新化するための定常研究等への投資を望まないケースがありうる。その代わりに、造船所はサポートサービスの供給者にそのタスクを求めたり、または他の第三者を探すという場合がありうる。実際上、修繕プロセスにはこれらの努力と関係者すべての連携が必要となることが多い。例えば英国においては以前まで政府の研究機関だったキネティック(QinetiQ)社が最近、熱への感受性が高い修繕作業に関して、船舶の構造体における亀裂を修復するための複合材料の革新的な使用方法を開発し、マスコミを賑わせた。このケースでは当該技術は造船所等に供給を委託するという形よりも、船舶運航に関連する鑑定事業者等に供給する形が優先されている。
 造船所は、船舶の保全に必要な技術の供給を受けるために適切な使用権と有効な合意契約、並びにそうしたサービスを外地でも供給するため、自らの下請会社に対するサブライセンスを確保しておかなければならない。
 上記の例においては、キネティックは、船級協会等と事前に連絡を取り、自らが開発した技術の船舶への使用が認められることの確認を取っている。第三者の技術供給者が常にこの技術を利用した修繕作業を行うわけではないため、造船所でも修繕に必要な関連許可を獲得することが必要となるだろう。
 
4-8. ケーススタディー8 秘密情報
 例えば船体塗装に関して、ある会社が特に革新的なプロセスを開発したとする。この会社はこのプロセスを対象とする特許権による保護を獲得するだろうが、同プロセスから得られる利益を最大化するためには、追加の諸措置が必要になることもありうる(特定のタイプの塗料や、特定の温度管理、特定の前加工等)。こうした要求事項は、特許権による保護の対象とはなりえないかも知れない。しかし当該企業は、競争面での優位を維持するため、こうした組み合わせ等が他の事業者とりわけ競合各社の知るところとなることは望まない可能性がある。
 この会社はその場合には秘密保持の義務を用いて情報を保護することができる。保護を受けるために、当該企業は以下の諸措置を講じなければならない。
(a)当該情報の開発に関する記録を保存する(当該情報が記録された日付、開発者、並びに開発場所を明記する)。
 これはこの会社が第三者のいかなる情報をも用いずに(そうでない場合には、当該企業にはその情報を使用する資格がないとするクレームが第三者から出される可能性がある)、自前で当該情報を開発したことを立証する際に役立つ。
(b)すべての開発者、ないしは当該情報と接触するその他の者に対して、雇用契約並びに第三者と交わす契約において秘密保持の義務を課す。
(c)当該情報の商業的価値(ないしは予想される価値)を示す記録を保存する。
(d)当該情報に機密指定の印を付け、安全な場所に保管し、必要最小限の者以外には開示しないようにする。
 これは、当該情報を極秘扱いにすることが必要であることを立証するために役立つ。
(e)当該情報の使用状況をモニタリングし、許可されていない使用が生じないよう対策を講じる。当該情報の使用ないしは開示のすべてについて記録を残し、そうした使用及び開示に関する書簡をすべて保管する。これは当該情報の使用がいずれも許可を受けたものであることを検査し、適切な措置が講じられていることを立証するのに役立つ。
(f)当該情報の開示を受けた者のすべてを対象に監査を随時行い、守秘義務への準拠状況を確認する。
 

* Patent Act 1977 Section 60(5)(d)
英連邦王国内もしくは領海内に一時的または意図せずに船舶が進入した場合、その船舶の船体または機械、索具、装置、その他の付属物が製品や工程に不可欠という限定された使用のために構成される物の使用の場合は特許侵害にあたらない。







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