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国際海事情報シリーズ84 欧州造船業を巡る知的財産権とその保護-英国を中心として-

 事業名 造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業
 団体名 シップ・アンド・オーシャン財団  


7. 欧州造船産業と知的財産
 欧州造船産業は今後の長期的繁栄を確保するためリーダーシップ2015計画を開始した。欧州造船産業は、造船所、設備メーカー、エンジニアリングサービス事業者等で構成され、新造船と修繕・改造からオフショア技術を含む機械的エンジニアリング等の海事活動の広い範囲に従事している。またこれらの多くは中小企業である。
 造船のような高度技術産業分野では知的活動が基本であり、リーダーシップ2015は、2000年3月のリスボン欧州理事会で前倒しが決定されたEUの経済・社会・環境回復のための長期戦略に対する分野別対応の一環と言える。リスボン戦略は、知識や革新技術にもっとターゲットを絞った投資や産業と研究機関のより密接な連携を通じて、競争力の改善やニュービジネス機会、及びバランスの取れた経済発展への基礎を提示している。
 リーダーシップ2015のロードマップは2002年10月に欧州委員会に上程され、2015年までに世界の造船業におけるリーダーとしての役割を確保し、重要な挑戦事項への回答を提示する骨太の戦略を明記した長期的視点に立った産業のアウトラインを示している。プロディ欧州議会議長はこのイニシアチブを歓迎し、全面的支援を申し出た。リーダーシップ2015はリッカネン欧州委員会委員長によって、起業環境の改善や所要の調整過程を円滑に進める手立てである欧州委員会の改定産業政策の中の分野別変革事項における優先課題の一つとして新たに認められた。
 欧州委員会の肝煎りで、リーダーシップ2015は、欧州委員会委員を含む諮問グループを形成した。諮問グループは具体的な行動を策定し、報告書を提出している。この報告書の中の柱として、欧州造船産業の知的所有権の保護が謳われており、全欧州造船産業が参加する知的所有権データベースを作り、それを知的財産権管理組織体(Intellectual Property Rights Entity、権利の集中管理組織)が運営するという構想が打ち出されている。これにより、欧州の対外的知的所有権保護が格段に改善されるとしている。また、現行の脆弱な特許保護の国際的枠組みを強く批難しており、特許を侵害している部品を運ぶ船舶が、その特許が登録され、保護されている国の港湾に寄港した際に、行政府が対抗措置を取ることを許さない現行の枠組みを再検討することの必要性を明示している。
 関連抜粋仮訳を下記に掲載する。
 
7-1. 欧州造船産業の知的所有権の保護
 欧州造船所と舶用メーカーは激しさを増す国際競争に直面している。このような環境において欧州の競争力は、革新的船舶コンセプトや最適化されたサブシステムそして洗練された設計や製品及び計画手法を用いて行く以外維持できない。
 知識駆動型技術は造船所と舶用メーカーの間で、ずいぶん早い段階から作られている。造船所は、技術的かつ商業的な制約の中で、ある建造プロジェクトのコストや納期を余裕を持って算定するために、舶用メーカーに詳細な技術要件と解決策を公開する必要がある。さらに造船所と舶用メーカーは、全てのレベルで適正な連携管理体制を確保し、各デバイスやサブシステムの技術的詳細について、緊密に協力せねばならない。造船所はまた船級協会とも知識を共有せねばならない。
 造船所と船主の間には、船舶の知識ベースの詳細な指示と膨大な情報交換が存在する。船主は、例えばヤードのスペックや一般配置図等の情報を集め、またそのような情報は世界的に彼らの商業的または技術的会議等で開示される。その他、造船所は、R&Dを進めるために、大学や他の専門家、特にCAD、CIMや他のITコンポーネントの分野と密接な協力を行っており、それは結果的に関連造船所のノウハウを公開することとなる。
 結果として、造船所は彼らと第3者からの知的所有権侵害の定常的リスクに曝されている。
 今日、著作権、登録デザイン、商標、特許は知的所有権を保護する主要な手段である。追加的手段として、「情報の秘匿」と、「特定共同作業協定」があるが、造船プロジェクトは一回限りの契約というものが一般的で、そのような場合、これら追加的手段は費用が掛かり見返りも少ないと見られる。
 全面的にこれら既存の手段を利用するために、造船所と舶用メーカーは彼らのノウハウが危険に曝されていることと、結果的に競争劣位を招くことを理解すべきである。知識データベースの創設はこの目標に到達するために、欧州造船所にとっては中心課題である。これらデータベースは、特定の船舶やコンポーネントの特徴をカバーするだけでなく、開発者や重要な特定顧客と供給者の関係も示されなくてはならない。知識データベースは知的財産権管理組織体(Intellectual Property Rights Entity、権利の集中管理組織)の構築の助けとなる。これによって、欧州造船業の知識を保護することができる。それは、造船所と舶用メーカーに対し、特定船舶の入手可能な(文書もしくは非文書)知識や、特定技術の知的財産や国際的知的所有権保護の要件や、関係技術分野の既存特許や、競合者の技術的位置付け、そして著作権侵害とその他の脅威に曝される潜在的状況を提示することとなる。そのような「知的財産権管理組織体」に向けられる全ての要求は、もちろん部外秘として扱われねばならない。そのような「知的財産権管理組織体」のコストは欧州造船関係者間で分担される。これによって、造船所と舶用メーカーは受け入れ可能なコストで知的所有権を行使するチャンスを改善出来ることになる。「知的財産権管理組織体」はまず、特許に適用される可能性がある。これは、費用面からより容易である。
 比較的長期に渡る有効期間と国際的認知の上から、特許は本質的手段といえる。欧州造船所は、彼らの主要競争者の国を含めて、特許等権限維持範囲を最大限に広げていく必要がある。また、船主も、船上の船舶運用機器類の特許侵害から守られねばならない。しかし複雑で真にグローバル化した造船市場と比較すると、現行の特許保護の国際的枠組みは1925年に創設されて以来、本質的に変更されていない。多くのルールは今日では使い物にならず、時代錯誤を呈し、理に合わないとされている。特許を侵害している部品を運ぶ船舶が、その特許が登録され、保護されている国の港湾に寄港した際に、行政府が対抗措置を取ることを許さない現行の枠組みを再検討することは、造船所に改良と革新を守る正しいツールを与え、R&Dの投資を促進し、獲得した特許の造船所の利益を刺激することとなる。 
 
7-2. 欧州知的財産の問題点と勧告
問題点
・欧州造船所と舶用メーカーは極東の競争者より技術的指導力に依存している。
・造船プロジェクトにおける造船所、舶用メーカー、船主、船級、大学、他の業務提供者間の複雑で包括的なやり取りには、知識漏洩の多くの機会が存在している。
・産業界は知的所有権の保護に対し十分な確立された文化がない。
 
勧告
・IPR保護の既存の手段(著作権、登録デザイン、商標、特許、非公開、特定共同開発合意)は完全に活用される必要がある。
・最新技術、既存特許、ある製品やソフトの特定競合状況、鍵となる知識保持者といった情報を含んだ、造船の知識データベースが「知的所有権管理組織体」として開発・運用せねばならない。
・造船に適用できる国際特許規則を検討し可能な限り強化する必要がある。
 
8. まとめ
 近年、低廉な労働コストや生産技術の導入・向上を背景に、急速にアジア諸国が輸出市場へ参入・拡大し始めているが、造船業もこの例外ではなく、すでに建造量では世界一となっている韓国はもとより、中国の建造量の急増と設備の急拡には、大きな危機感が漂う。
 これまで我が国の成功を支えてきた、高い生産効率と品質管理を追及する所謂「改善」戦略だけでは、ジリ貧に追い込まれることは確実と思われる。
 日本政府は、産業界のこうした危機感を反映し、国富の源泉たる知的財産の創造を推し進めるため、平成14年7月3日に「知的財産戦略大綱」を取りまとめ、個別政策としても、知的財産の取得管理指針や不正競争防止法の改正による営業秘密の漏洩防止強化、意図せざる海外への技術流出指針を発行する等、その対応に腐心している。
 造船業にとって今後の国際的な比較優位を保つには、生産効率のさらなる向上によるコスト削減とそのための計画的設備投資・教育訓練、そして企業の連携統合はもちろんであるが、技術開発と表裏一体の関係にある知的財産の保護もとりわけ重要である。
 貴重な経営資源を投入して出来上がった新設計のデータやノウハウが競合相手に渡ることはなんとしても阻止しなくてはならない。それがどのような局面で発生する可能性があり、またどのような手段で防ぐことが出来るのか、そして現状どのような問題が残り、今後何をしたらよいのかという具体的な企業行動の観点から、高付加価値船の分野では世界のトップリーダーである欧州の知的財産権保護の制度と実態、並びに今後の方向性を調査した。
 我々は既に耳慣れたグローバル化の波に洗われているが、欧州と日本では商習慣や雇用契約をはじめとし、文化として様々な局面で大きな違いはある。しかし、造船業は既に世界統一市場であり、欧州で可能なことが日本では不可能という事態はもはや許されない。顧客である船主から部内の従業員に至るまで、知的所有権侵害や営業秘密や技術情報の漏洩の可能性は否定できない。欧州では一般的となっている守秘義務の確認契約を、情報をやり取りする双方が締結することや、図書図面管理を徹底することは最低限必要であろうし、知的財産の管理・登録をトップダウンで進めるべきである。
 英国では、ある外国のフェリーが英国の港湾において特許侵害に当たるとして裁判となり、英国港湾では数時間の停泊時間しか許されないとの判決が出された。これは、特許侵害に当たる船舶は、英国領海に(数時間以上)留まることができない事実を示している。
 欧州造船業界は、リーダーシップ2015と呼ばれる長期戦略計画の中で、知的所有権保護の重要性が戦略8分野の一つとして掲げられ、欧州の造船所が個別に知的所有権に対応するのではなく、全ての権利を「知的所有権の管理組織体」が集中管理するとともに、知的所有権を侵害している船舶は、一時の入港さえも許さないとする国際条約の強化を打ち出している。
 このような欧州の知的財産への取り組み強化を踏まえ、我が国もこれを促進するため、早急に対応を加速する必要があろうと思われる。
以上







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