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国際海事情報シリーズ85 最近の米国の海洋政策策定の動向

 事業名 造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業
 団体名 シップ・アンド・オーシャン財団  


刊行によせて
 当財団では、我が国の造船関係事業の振興に資するために、競艇交付金による日本財団の助成金を受けて、「造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業」を実施しております。その一環としてジェトロ船舶関係海外事務所を拠点として海外の海事関係の情報収集を実施し、収集した情報の有効活用を図るため各種調査報告書を作成しております。
 
 本書は、社団法人日本中小型造船工業会及び日本貿易振興機構が共同で運営しているジェトロ・ニューヨーク・センター船舶部のご協力を得て実施した「最近の米国の海洋政策策定の動向」に関する調査をとりまとめたものです。
 関係各位に有効にご活用いただければ幸いです。
 
2004年3月
財団法人 シップ・アンド・オーシャン財団
 
はじめに
 現在の米国の海洋政策は1969年に作成された通称ストラットン審議会の報告書に基づき、執行されているが、1990年代後半から、新たな海洋政策の必要性について議論がなされ、2000年8月に海洋法が成立した。
 
 2000年海洋法に基づき海洋政策審議会が設立され、海洋に関して米国が直面している問題に照らし、既存の政策及びプログラムの見直しを行い、大統領と議会に提言を行うこととなった。2001年9月から活動を開始した本審議会は2003年4月までに10回の公聴会を含む計15回の公開会議を開催した。現在、審議会は最終報告書案のとりまとめ作業を実施している。2003年5月に最終報告書目次の第一次草案が公開され、報告書草案公開が2003年秋と予告されたものの、2004年1月末の本原稿作成時点において公開されていない。
 
 本報告書では、海洋政策審議会設立の経緯、組織、運営形態などの説明とともに、2003年6月に公表された、2001年から2002年の公聴会における発言をとりまとめた2つの文書をもとに、審議会文書で利用されている議題の項目別に独自に整理を行い、最終報告書に取り込まれる可能性が高いと考えられる主要テーマを抽出し、各テーマに対する公聴会での主要な発言を要約した。
 
 さらに2002年11月から2003年4月にかけて開催された公開審議の場での議論から、最終報告書に取り入れられると考えられた事項を要約した。
 
 本報告書が関係各位の今後の米国の海洋政策の策定動向理解の一助となれば幸いである。
 
ジェトロ・ニューヨーク・センター船舶部
(社団法人日本中小型造船工業会共同事務所)
ディレクター 渡邉元尚
アシスタント・リサーチャー 氏家純子
 
1. 2000年海洋法成立の経緯
 1966年に米国の海洋政策の目標を設定するための「海洋資源及びエンジニアリング開発法」(公法89-454)が成立した。同法には(1)米国の海洋政策と目標を宣言する所見、(2)海洋資源及びエンジニアリング開発についての米国諮問委員会の設立、(3)海洋科学、工学、資源に関する大統領審議会の設立、の3つの要素が盛り込まれていた。「ストラットン審議会」と呼ばれた大統領審議会は15人の超党派メンバーで構成され、1967年にジュリアス・ストラットン博士がリンドン・ジョンソン大統領により審議会議長に指名された。ストラットン博士はマサチューセッツ工科大学の元学長であり、フォード財団の取締役会長でもあった。1969年に審議会は、「わが国と海洋:国家行動計画」1と題する報告書を作成し、120項目を超える公式の提言を議会に提出した。当該報告書による提言をもとにNOAA2が設立されたほか、沿岸区域管理法3、漁業保護管理法4を含む複数の海洋及び沿岸管理法が成立した。
 
 2000年海洋法審議の過程で提出された委員会報告書には、「1966年以来、常に様々な課題が発生し、拡大していったことから、海洋資源のガバナンスと海洋空間の利用に関して国としての一貫した制度が必要であることは明らかである」と指摘されている。上院委員会報告書106-301にはこれらの課題のいくつかが具体的に挙げられている。たとえば、沿岸地域への急激な人口集中、海上貿易の成長、観光、海洋活動に関する米国の行政組織の複雑さ、沿岸資源の限界と涸渇、環境問題、海洋及び海洋生物の開発利用を拡大する技術の進歩等である。
 
 これらの課題に対処するために、第105期及び第106期議会に、より完全で一貫した国家海洋政策を策定するためにストラットン審議会に準じた審議会の設立を義務づける複数の法案が提出された。法案が複数となったのは概ね立法手続き、または上院と下院の与野党勢力の構成に起因するものであり、各法案の内容には大きな違いはなかった。
 
1-1. 第105期議会(1997-1998)
 第105期議会には海洋及び沿岸活動についての一元化された長期的国家政策の策定を目的とした3法案−H.R.2547、H.R.3445、S.1213-が提出された。第105期議会ではどの法案も最終審議まで到達しなかったが、これらの法案の一部は2000年海洋法の下敷きとなった。
 
 Sam Farr下院議員(民主党カリフォルニア州)は1997年にH.R.2547を提出した。同法案は下院資源委員会に付託され、漁業管理・野生生物・海洋小委員会で公聴会が開催された。同法案の概要は以下のとおりである。
 
○海洋及び沿岸活動に関する一元化された長期的国家政策を策定、維持することを大統領に指示し、
○その国家政策を実行するための戦略を大統領と議会に報告する海洋政策審議会を設立し、
○包括的政策の進捗状況を隔年に議会に報告することを大統領に義務づけ、
○予算項目がどのように国家戦略の遂行に役立つか具体的な説明を義務づける。
 
 下院では、H.R.2547についてこれ以上の審議は行われなかった。しかし、競合する共和党提出版の法案H.R.3445がやがて下院を通過した。
 
 1997年9月24日にHollings上院議員(民主党サウスカロライナ州)はS.1213を提出した。この法案が最終的に成立した海洋法の土台となった。同法案は上院通商委員会に付託された。概要は以下のとおり。
 
○本法で義務づけられた審議会報告書の検討後、海洋及び沿岸活動についての一元化された長期的国家政策を策定し、維持することを大統領と議会に義務づける。
○16名からなる超党派の海洋政策審議会を設立、同審議会は18ケ月以内に指示された国家政策を実施に移すための最終的提言を大統領と議会に報告する。
○大統領と審議会が本法で定められた職責を果たすことを支援するために米国海洋諮問委員会を設立する。諮問委員会は商務長官、運輸長官、国務長官、国防長官、内務長官、司法長官、環境保護庁、米国科学財団、科学技術政策局、環境クォリティ諮問委員会、米国経済諮問委員会、行政管理予算局の長で構成される。
○大統領は、海洋及び沿岸活動に関係するすべての連邦プログラムとその予算について隔年に議会に報告する。
 
 通商委員会が同法案のマークアップ審議5をおこなった。マークアップ審議の場でMcCain上院議員は審議会メンバー指名に関してHutchinson上院議員が表明した懸念に対処するための修正案を提案した。McCain修正案は審議会メンバーを15人から16人に増員し、大統領は審議会メンバーを指名するにあたって議会幹部が作成した推薦者リストを参考とすることとした。McCain修正案は発声投票により採択され、修正版の法案は発声投票により全員一致で可決された。1997年11月13日、S.1213は諮問委員会の権限と設置期間に関する修正案が添付されたうえで、全員一致で上院を通過した。同法案は下院に送付され、下院資源委員会、科学・通商・運輸・インフラ委員会に付託された。同法案について下院ではそれ以降の動きはなかった。
 
 1998年3月12日、Jim Saxton下院議員(共和党ニュージャージー州)がH.R.3445を提出した。同法案は下院資源委員会に付託され、漁業資源保護・野生生物・海洋小委員会で公聴会とマークアップ審議が行われ、修正案つきで小委員会を通過した。本委員会は同法案のマークアップを行い、発声投票によりこれを可決、本会議に上程した。上程と同時に、同法案本文と修正案の内容のうち下院運輸・インフラ委員会と下院科学委員会の管轄部分について審議を行うように両委員会に期限付きで共同付託された。同日、議会規則保留6によりH.R.3445は可決された。H.R.3445の内容はS.1213の内容とほぼ同様であるが、米国海洋諮問委員会の設立は盛り込まれていなかった。同法案は上院に送付された後、棚上げとなり、廃案となった。
 
1-2. 第106期議会(1999-2000)
 第106期議会には海洋及び沿岸活動についての一元化された国家政策の策定を目的として、H.R.2425、H.R.4410、S.959、S.2327の4法案が提案された。これらの法案の内容は、第105期議会版の各法案と同一であった。このうちのひとつ、S.2327が最終的に2000年海洋法として成立することになる。
 
 1999年7月1日にFarr下院議員がH.R.2425を提出した。同法案は下院資源委員会に付託された。立法の過程でよく使われる手法であるが、H.R.2425は上院民主党版法案であるS.959の条項とほとんど同一のものであった。下院資源委員会では同法案の審議は一度も行われなかった。
 
 1999年5月にHollings上院議員がS.959を提出した。同法案は上院通商委員会に付託された。S.959の内容は第105期議会に上院で可決されたS.1213と同一の内容であった。上院通商委員会では、106期版Hollings法案について何の審議も行われなかった。さらに、2000年3月19日に、Hollings上院議員はS.2327を提出した。これが最終的に2000年海洋法として成立することになる。同法案は通商・科学・運輸委員会に付託された。同法案には20名の議員が共同提出者として名を連ねており、その中にはは通商委員会のメンバー6名:Breaux(民主党ルイジアナ州)、Inouye(民主党ハワイ州)、Kerry(民主党マサチューセッツ州)、Snowe(共和党メイン州)、Stevens(共和党アラスカ州)、Wyden(民主党オレゴン州)と役付きの上院議員:Akaka(民主党ハワイ州)、Boxer(民主党カリフォルニア州)、Cleland(民主党ジョージア州)、Feinstein(民主党カリフォルニア州)、Landrieu(民主党ルイジアナ州)、Lautenberg(民主党ニュージャージー州)、Moynihan(民主党ニューヨーク州)、Murkowski(共和党アラスカ州)、Murray(民主党ワシントン州)、Reed(民主党ロードアイランド州)、Roth(共和党デラウエア州)、Sarbanes(民主党メリーランド州)、Schumer(民主党ニューヨーク州)の名前もあった。
 
 S.2327の内容は第105期、第106期議会に提出された先行法案の内容に沿ったものであった。上院提出版S.2327の概要は以下のとおりである。
 
○本法により義務づけられた審議会報告書を検討後、海洋及び沿岸活動についての一元化された長期的国家政策を策定、維持することを大統領と議会に指示する。
○16名の委員で構成される海洋政策に関する超党派の審議会を設立し、同審議会は18ケ月以内に国家政策を実施するための最終的提言を議会と大統領に報告する。
○海洋及び沿岸活動に関する連邦プログラムとその予算を隔年に議会に報告することを大統領に義務づける。
 
 S.2327の特徴は、大統領と審議会が責務を果たすことを助けるための米国海洋諮問委員会の設置が盛り込まれていないことである。
 
 2000年4月13日、委員会はS.2327のマークアップ審議をおこなった。同法案は修正なしで委員会を通過し、委員会報告書No.106-301とともに本会議に上程された。2000年6月26日、Hollings上院議員は上院本会議審議で全文差し替えの修正案を提案し、これが異議なしで可決された。修正案では審議会に米国科学学会の米国研究諮問委員会の海洋研究委員会との協議を義務づけ、審議会が最高の科学的情報を入手することを確実にするために専門家による学際的顧問パネルを設立することを義務づける条項が付け加えられた。
 
 2000年6月26日に下院はS.2327を受託し、下院資源委員会に付託した。2000年7月25日にSaxton下院議員の提案により、通常議会規則手続きの保留による本会議採決が行われ、S.2327は発声投票で可決され、大統領に送付された。海洋法(公法106-256)は2000年8月7日にクリントン大統領(当時)の署名により成立した。
 
 2000年海洋法は1966年海洋資源エンジニアリング開発法の条項を下敷きにして、大統領に包括的な長期的海洋及び沿岸国家政策を策定、実施することを義務づけている。同法はストラットン審議会と同様の16名からなる海洋政策審議会を設立し、海洋及び沿岸活動を調査し、統一性のある国家政策の提言をまとめることとしている。審議会の設立は同法成立から90日以内(2001年1月20日)とされ、審議会メンバーは上院、下院の両院の与野党代表に指名された人物から選ばれる。具体的には、ブッシュ大統領が審議会委員4名を直接指名し、残りの12名は以下のような手順で指名された。
 
○上院多数派党院内総務が上院通商・科学・運輸委員長と相談のうえ指名した8名のリストから4名。
○下院議長が下院資源委員会、科学委員会、運輸インフラ委員会委員長と相談のうえ指名した8人のリストから4名。
○上院少数派党院内総務が上院通商・科学・運輸委員会の筆頭委員と相談のうえ指名した4名のリストから2名。
○下院少数派党院内総務が下院資源委員会、科学委員会、運輸インフラ委員会の筆頭委員と相談のうえ指名した4名のリストから2名。
 
 審議会はメンバーの中から議長を選出する。審議会メンバー候補者となる資格を有するのは海洋及び沿岸活動に関する識者、州及び地方自治体政府当局者、海洋関連業界代表、学術及び技術機関代表、科学、規制、経済、環境の面で海洋及び海岸活動に関与する公益団体の代表、とされている。
 
 審議会は成立から18ヶ月以内に国家海洋政策についての所見と提言を詳細に説明した報告書を提出することが義務づけられている。審議会は以下の課題について報告する。
 
○海洋・沿岸活動に関連する人的資源、船舶,衛星等の施設及び技術の評価。
○連邦政府の海洋・沿岸活動の見直し。
○過去の海洋・沿岸活動に関する規制の改正すべてを見直し、不整合、矛盾を解消。
○米国海洋・沿岸資源の需給見直し。
○海洋・沿岸活動における連邦、州、自治体,民間部門の関係見直し。
○海洋・沿岸生産物及び技術開発の機会見直し。
○海洋・沿岸活動の有効性と統合を高めるための連邦及び州の活動の見直し。
○海洋・沿岸資源の管理、保護、利用改善のための米国法の改正提案。
○連邦政府機関の間の海洋政策調整の有効性と妥当性見直し。
 
 審議会報告書の受領から120日以内に、大統領は、海洋及び沿岸資源に関する一元化された包括的政策についての審議会の提言を実行に移すための提案を議会に提出することが義務づけられている。提案を作成するにあたり、大統領は州政府、地方自治体政府、海洋及び沿岸活動に関与する組織と協議しなければならない。
 
 さらに大統領は2001年9月より、連邦海洋及び沿岸プログラムのすべてについて、各プログラムの説明、現在の予算レベル、5カ年予算計画を詳細に説明した隔年報告書を議会に提出することが義務づけられている。
 

1ストラットン審議会の報告書は米国海洋大気局のオンライン図書館で閲覧することができる。http://www.lib.noaa.gov/edocs/stratton/contents.html
2NOAA: National Oceanic and Atmospheric Administration(米国海洋大気局)。商務省内の局
3Coastal Zone Management Act(1972)
4Fishery Conservation and Management Act(1976)
5Mark-up: マークアップ審議は法案を本会議に上程する前にその本文を見直すために行われる委員会会議を指す。委員会メンバーは修正案(amendments)と呼ばれる当該法案の文言に対する変更事項を提案し、採決を行う。
6Suspension of Rules: 通常の議会規則を保留することにより採決を加速する特別な議会手続き。Suspension of Rulesにより本会議審議にかけられた法案の討議は40分以内という時間制限を受け、修正は認められず、可決に3分の2の得票が必要とされる。







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