国連本部の北側に、芝生の庭が広がる。観光客が足をとめるのは、巨大なブロンズ像「善は悪に打ち勝つ」だ。核廃絶を願って建てられたその像の下に、工場があることは、気付かない。地下3階が、年間4億枚の文書を印刷する工場だ。115人の職員が3交代、24時間不休で働く。
「総会中は20人のアルバイトを雇うが、それでも足りない。会議用文書は公用語6カ国語を刷り分ける。1日に刷る文書は100件から300件。紙は毎日、大きなロールで15巻を使います」と、ポール・カザロフ工場長は言う。文書は増える一方で、関係者によると「安保理で配られる文書は、冷戦で機能していなかった時代には年間で数センチだったが、いまは毎日2センチぐらい」。総会は例年、「事務局文書は32ページ以下にすること」などと決めるが、「効率が官僚機構に打ち勝つ」ことはない。
国連は事務局員のための「文章講座」を9月から始めた。要領よく決議案や報告書を書く技術を教える。9月28日は経済社会理事会で実際に使われた文書を「悪い手本」にした授業だった。講師は「報告書は決議案のリストを並べるだけではだめ。要約は骨子だけを」と、半分の長さにまとめた「模範」を示した。
国連は非能率な組織だと言われる。人が多すぎる。会議はまず定刻に始まらない。今年6月の地球サミットでも会議の遅れに議長が「これは国連の慣習ではない」と皮肉って怒る一幕もあった。しかし、国連は本来「会議外交」の場で、日本の国会対策委員会に似て、根回しに時間がかかる。会議も無数に開かれ、無数の資料が作られる。他の国が反論しようとすれば、別の文書を用意する。文書を書けるのが「有能な国連外交官」「有能な職員」という面もある。
「非能率」といえば、国連内部で最悪の例に持ち出されるのが、東京・渋谷にできた「国連大学」だ。土地は東京都が無償で提供、地上14階、地下1階の本部ビルの総工費130億円は政府が拠出したが、財政難などもあって本来400人程度のスタッフが入れるスペースも100人以下しか埋まっていない。が、建物は協定により、賃貸もできない。そして、次長職の学長の年給は、ニューヨークの次長が11万7890ドルなのに、東京の地域手当が3倍余もあるため、20万5536ドル。「あれはいったいなんのための機関なのか」。国連職員たちには、「壮大なムダ」と映っている。
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