この春、日本外務省は国連安保理の改革構想をまとめた。国連創設50周年の95年を目標に、常任理事国入りを目指す、という内容だ。この文書はいまも国連局の金庫で眠っている。
「あちらを立てれば、こちらが立たず。危なっかしい綱渡りだ」。外務省幹部は常任理事国入りの難しさをこう説明する。国連で多数派を占める途上国は安保理改革に積極的で、日本の常任理事国入りを支持する国が多い。「悲願」達成には途上国の支持が不可欠だが、深入りすれば常任理事国5カ国(P5)の反発を買う――日本が抱えるジレンマだ。
9月末、日本を訪れたスハルト・インドネシア大統領が宮沢喜一首相に「国連は、時代遅れで現状に合わなくなっている。日本とドイツが常任理事国になるべきです」と水を向けた。首相が「それには国連憲章の改正が必要だ。難しく、大変な仕事です」とかわしたのも、日本の立場を考えてのことだった。
外務省が安保理改革の構想づくりに着手したのは、90―91年の湾岸危機・戦争後だ。「ドイツとの一括加入を目指しては」「それでは途上国の賛成を得られない。ブラジルなどの有力な国と組んだ方がいい」。議論の結果まとまったのが「拒否権を持たない常任理事国を4カ国程度新設して、そこに日本も加わる」との案だった。P5と途上国の双方に目配りした「苦心の作」(外務省幹部)ではあった。
ドイツも日本と似たような立場にあるが、より慎重だった。コール首相は常任理事国入りに意欲をにじませる日本を横目に、今年1月「そのテーマは、全く私の心を動かさない」と発言していた。
だが、9月の国連総会では、「安保理の構成が変われば、常任理事国の地位を目指す」(キンケル外相)と、態度を一変させた。「ドイツは、日本が国連総会ではっきりと名乗りをあげるとみていたようだ。それで先走ってしまい、誤算を生んだ」と外務省幹部が分析するように、「有力候補」同士の神経戦の様相も。インドやインドネシアが、日本を盛んにくすぐるのも「日本を先頭に、あわよくば自国も、という狙いから」と外務省はみる。
日本は非常任理事国として、来年いっぱいは安保理に席を占める。外務省内には「出るクイは打たれる。いますぐには動くべきではない」との空気が強い。日本の安保理改革案が金庫から出るのは、しばらく先になりそうだ。
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