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平成17年度 便宜置籍船における海事保安事件(船内殺人・障害事件等)の処理と問題点 調査研究報告書

 事業名 「便宜置籍船における海事保安事件の問題」調査・研究
 団体名 日本船長協会 注目度注目度5


4.3 事件の種類:傷害、最初の入港国:日本
【3月10日】
 ペルシャ湾を出航し横浜港へ向かうVLCC P号(300,000DWT、乗組員19名(日本人5名、M国人13名))船上において、同船のM国人甲板員甲は、船内備品の無断使用を日本人二等航海士乙に見つかり叱責を受け、甲はこれに逆上、所持していた工具にてBを殴打した。乙は頭部に重傷を負ってその場に倒れたが、たまたまその場にM国人機関員丙が現れ、丙は直ちに事態を船長に報告した。
 船長は直ちに全職員に事態を連絡、信頼できるM国人部員数名にも連絡し一同を参集、船内衛生管理者に乙への手当を指示し、被疑者である甲の拘束に向かった。甲は船内食堂にいるところを発見され、船長は一同に甲の拘束及び監禁部屋の設置を指示した。また、凶器となった甲の工具を自ら保管した。その後、船長は機関長、一等航海士、一等機関士同席のもと甲から犯行の状況、犯行の動機等について事情聴取を行い、記録を残し、甲の監禁部屋への監禁を指示した。
 さらに船長は、発生事態、実施した措置、被疑者の状態等について船舶管理会社に船舶電話にて連絡した。連絡を受けた船舶管理会社は、直ちに海上保安庁と事件への対処について協議した。
 犯行は公海上で行われたため、一義的には刑事裁判管轄権は旗国であるL国にあるが、被害者が日本人であるため、刑法3条の2に基づき日本にも刑事裁判管轄権が発生する。また、被疑者の国籍国であるM国の刑法では、積極的属人主義を採用していないため、同国には刑事裁判管轄権は発生しない。
 ここでL国と日本で刑事裁判管轄権の競合が発生するが、海上保安庁は刑法3条の2に基づき被疑者を逮捕する方向で船舶管理会社と調整するとともに、法務省に事態を連絡し、外交関係を考慮して外務省を通じ被疑者の国籍国であるM国、便宜置籍国であるL国との調整を行うこととした。
 
【3月11日】
 外務省は在京M国、L国大使より、日本によるP号への執行管轄権行使を承諾するとの書簡を入手、同省はその旨海上保安庁に直ちに連絡した。これを受け、海上保安庁は被疑者逮捕のため裁判所へ逮捕状を請求、逮捕状は同日中に発付された。さらに海上保安庁は本船、船舶管理会社とも協議し、人命保護を第一に考え、P号を最寄りの沖縄県N港港外に投錨させ、そこで被害者を下船させて病院に搬送し、被疑者の逮捕、現場検証、取り調べを行うこととした。
 
【3月12日】
 P号はN港港外に投錨、巡視艇が接舷して、捜査員等がP号に乗船、被疑者の逮捕、船長より証拠品、事情聴取記録の引き渡しを受けるとともに、船内での現場検証、被疑者取り調べを開始した。被疑者の身柄は、海上保安庁の留置施設にて留置することとした。
 
【3月13日】
 捜査員は検察庁に被疑者を送検し、検察庁は被疑者を勾留する十分な理由があると判断、裁判所へ勾留請求を行った。それを受け裁判所は被疑者に勾留質問を行い、審査の上拘留状が発付された。勾留状は同日より執行された。
 
【3月18日】
 海上保安庁、検察庁による現場検証及び取り調べが終了。検察庁は公訴提起の準備に入った。P号は目的地である横浜港へ向け出航した。
 
<船長の対応>
・被害者乙への手当
・被疑者甲の拘束、監禁
・証拠品の保管
・船舶管理会社への連絡
・被疑者甲からの事情聴取
・海上保安庁への被疑者甲、被害者乙、証拠品、事情聴取記録の引き渡し
 
4.4 事件の種類:傷害、最初の入港国:K国
【3月10日】
 大阪港を出航しK国のR港へ向かうばら積み船 S号(188,000MT、乗組員17名(日本人5名、M国人12名))船上において、同船のM国人甲板員甲は、船内備品の無断使用を日本人二等航海士乙に見つかり叱責を受け、甲はこれに逆上、所持していた工具にてBを殴打した。乙は頭部に重傷を負ってその場に倒れたが、たまたまその場にM国人機関員丙が現れ、丙は直ちに事態を船長に報告した。
 船長は直ちに全職員に事態を連絡、信頼できるM国人部員数名にも連絡し一同を参集、船内衛生管理者に乙への手当を指示し、被疑者である甲の拘束に向かった。甲は船内食堂にいるところを発見され、船長は一同に甲の拘束及び監禁部屋の設置を指示した。また、凶器となった甲の工具を自ら保管した。その後、船長は機関長、一等航海士、一等機関士同席のもと甲から犯行の状況、犯行の動機等について事情聴取を行い、記録を残し、甲の監禁部屋への監禁を指示した。
 さらに船長は、発生事態、実施した措置、被疑者の状態等について船舶管理会社に船舶電話にて連絡した。連絡を受けた船舶管理会社は、直ちに海上保安庁と事件への対処について協議した。
 犯行は公海上で行われたため、一義的には刑事裁判管轄権は旗国であるL国にあるが、被害者が日本人であるため、刑法3条の2に基づき日本にも刑事裁判管轄権が発生する。また、被疑者の国籍国であるM国の刑法では、積極的属人主義を採用していないため、同国には刑事裁判管轄権は発生しない。
 ここでL国と日本で裁判管轄権の競合が発生するが、海上保安庁は刑法3条の2に基づき被疑者を拘束する方向で船舶管理会社と調整するとともに、法務省に事態を連絡し、外交関係を考慮して、外務省を通じ被疑者の国籍国であるM国、便宜置籍国であるL国との調整を行うこととした。
 
【3月11日】
 外務省は在京M国、L国大使より、日本によるP号への執行管轄権行使を承諾するとの書簡を入手、同省はその旨海上保安庁に直ちに連絡した。これを受け、海上保安庁は被疑者逮捕のため裁判所へ逮捕状を請求、逮捕状は同日中に発付された。
 船舶管理会社は海上保安庁とも協議し、人命保護を第一に考え、P号を最寄りのJ国のT港に寄港させそこで被害者を下船させて病院に搬送する方向で調整に入った。
 また、海上保安庁はP号のJ国のT港への寄港時、現地で被疑者の引き取り、現場検証、取り調べを行う方針とし、船舶管理会社と調整を行うとともに、外務省を通じてJ国に同国T港でのそれらの実施の許可を申請し、被害者の病院への搬送について現地救助機関の協力を要請した。
 
【3月12日】
 在京J国大使より外務省を経由して海上保安庁へ、同庁によるT港でのS号船内における被疑者の引き取り、現場検証、被疑者取り調べ実施を許可するとの回答が得られた。また、現地救助機関が被害者を病院に搬送するとの回答が得られた。
 船舶管理会社は海上保安庁と協議し、T港寄港及び捜査のためのS号の運航スケジュール調整等を実施し、その結果に基づいて今後の行動に関するS号への具体的指示を行った。
 
【3月14日】
 S号はJ国のT港に入港、船長は現地救助機関に被害者を引き渡し、被害者は病院に搬送された。また、船長は船内警察権を根拠とし、引き続き被疑者を船内に監禁した。
 
【3月16日】
 T港に海上保安庁の捜査員が空路到着、停泊中のS号に乗船し、船内での現場検証、被疑者の取り調べを開始した。
 
【3月26日】
 現場検証及び被疑者取り調べを終了。捜査員は空路被疑者を日本まで押送し、成田空港到着後、同空港内で逮捕状を執行した。死体、証拠品等についてはJ国から空輸で海上保安庁に送付した。
 
<船長の対応>
・被害者乙への手当
・被疑者甲の拘束、監禁
・被疑者甲からの事情聴取
・証拠品の保管
・船舶管理会社への連絡
・現地救助機関への被害者乙の引き渡し
・海上保安庁への被疑者甲の引き渡し
 
4.5 被疑者が日本人、被害者が外国人であるケースについて
 上記4.1〜4.4において、被害者が日本人、被疑者が外国人であるケースを想定して事件処理をシミュレーションしたが、被害者が外国人、被疑者が日本人であっても、わが国が執行管轄権を行使して事件処理をするとの想定ならば、事件処理に大きな違いはないので、詳細なシミュレーションについては省略する。しかし、国際犯罪においては、被害者の国籍国が自国民保護の観点から事件処理に積極的である傾向にあり、さらに当該国の刑法が消極的属人主義を採用している場合、当該国の間とも管轄権の競合が発生することとなるので、わが国の執行管轄権行使がより困難になるという可能性は考えられる。
 
4.6 被疑者・被害者とも日本人であるケースについて
 被疑者・被害者とも日本人であるケースについても、わが国が執行管轄権を行使して事件処理をするとの想定ならば、上記シミュレーションと事件処理に大きな違いはないので、詳細なシミュレーションについては省略する。しかし、日本人同士の犯罪ならば、便宜置籍船上で発生したとしても、外国との調整が比較的容易に行われることが想定されるので、外国人が介在するケースよりも容易に処理できるものと考えられる。


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