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平成17年度 便宜置籍船における海事保安事件(船内殺人・障害事件等)の処理と問題点 調査研究報告書

 事業名 「便宜置籍船における海事保安事件の問題」調査・研究
 団体名 日本船長協会 注目度注目度5


5章 外国人同士の船内犯罪の処理について
 日本商船隊を構成する多くの便宜置籍船は、通常船員供給国出身の外国人船員が多く乗り組み、船長を含めすべての乗組員が外国人のケースも多く存在する。
 そのため、日本商船隊を構成する便宜置籍船における船内犯罪への対処を考える上で、被疑者又は被害者として日本人が関わっていない、外国人同士の犯罪が発生する可能性も十分あり、その法的処理についても考慮する必要があると考えられる。
 また、そのような事件は、事件当事者の国籍国及び便宜置籍国の法体系の中で処理されることになり、その処理方法は船長の国籍によらず、日本人船長の対応のみに限定されない汎用的な対応としても意味を持つ。
 そこで、以下に、便宜置籍船における外国人同士の船内犯罪の処理に関する各国の刑事裁判管轄権、及びそれに基づく事件処理の概略想定について述べることとする。
 なお、犯罪発生水域は、沿岸国の主権に服する内水以外のものを想定することとする。
 
5.1 外国人同士の船内犯罪における刑事裁判管轄権
 便宜置籍船における外国人同士の犯罪についても、国連海洋法条約に基づき、一義的には旗国である便宜置籍国の法律が適用されることになる。しかし、被疑者の国籍国の刑法が積極的属人主義を採用している場合、及び被害者の国籍国の刑法が消極的属人主義を採用している場合は、それらの国と旗国の管轄権が競合することになる。
 また、領海内で発生した事件については、3.1で述べたように、国連海洋法条約に基づき、その船舶の船長等が沿岸国の当局に援助を要請した場合、沿岸国は裁判管轄権はないものの、捜査、犯人の逮捕ができることとなっている。
 
5.2 関係各国への連絡
 TAJIMA号のケースでは、同船が日本商船隊の一部を構成するものであり、かつ被害者が日本人であったことから、直接の刑事裁判管轄権はなくとも日本政府が事件への対応に中心的役割を果たし、唯一刑事裁判管轄権を持つ旗国が管轄権を行使するよう働きかけた。
 しかし、同様の事件が外国人同士の間で発生した場合、どの国が中心となって事件に対応していくか、どの国が刑事裁判管轄権を行使するかは事件発生の条件によって異なり、自明ではない。
 よって、本船から船内犯罪発生の連絡を受けた船舶管理会社は、まず関係するすべての国の政府機関に連絡を行うものとし、最初から事件への対応に積極的な国がある場合、以後の対応を当該国に委ねるものとする。
 
5.3 国による積極的な事件への対応がなされない場合の措置
 2章でみてきたように、便宜置籍国は自国民の関与していない船内犯罪への対応に消極的な傾向にあり、被害者の国籍国は自国民保護の観点から船内犯罪への対応に積極的な傾向にある。
 しかし、数多くの船員供給国がある現在、自国民が船内犯罪の被害者となった事件であっても、すべての国が積極的な対応をとるとは限らず、旗国、被疑者の国籍国、被害者の国籍国のいずれも事件への対応に積極的ではないというケースも起こり得る。
 そこで、船内で発生した事件について、その対応に中心的役割を果たす国が存在しない場合を想定し、船長の事件処理理解ための参考として、以下に船舶管理会社がとる対応の一例について述べる。
 
5.3.1 船舶管理会社から旗国への対応要請
 便宜置籍船における船内犯罪には、国連海洋法条約に基づき、一義的には旗国である便宜置籍国の法律が適用されることになるので、船舶管理会社は最初に便宜置籍国の政府機関に事件への対応を求めるものとする。
 しかし、2章でみてきたように、便宜置籍国は自国民の関与していない船内犯罪への対応に消極的な傾向にあるため、現実には船舶管理会社からの直接の要請で便宜置籍国が事件への対応に動く可能性は低いと考えられる。
 
5.3.2 船舶管理会社から被疑者の国籍国への対応要請
 旗国である便宜置籍国による積極的な協力が得られない場合、被疑者、被害者の国籍国に対応を要請しなければならないが、被害者の国籍国による消極的属人主義は、使い方によっては異論の多い原則であるので、まず被疑者の国籍国に、積極的属人主義による自国民の国外犯処罰規定がないか確認し、ある場合にはそれに基づく事件への対応を要請する。
 また、そのような規定がなくとも、当該国が関係国との調整を行う等、事件への対応を実施する意志がある場合は、以後の対応を当該国に委ねることとする。
 
5.3.3 船舶管理会社から被害者の国籍国への対応要請
 被疑者の国籍国についても、事件への積極的な対応がない場合は、被害者の国籍国に消極的属人主義に基づく、自国民以外の者の国外犯処罰規定がないか確認し、ある場合にはそれに基づく事件への対応を要請する。
 また、そのような規定がなくとも、当該国が関係国との調整を行う等、事件への対応を実施する意志がある場合は、以後の対応を当該国に委ねることとする。
 
5.3.4 船舶管理会社による、その他の手段による旗国へ対応要請
 被疑者、被害者の国籍国においても当該事件の刑事裁判管轄権を有しない場合、唯一刑事裁判管轄権を持つ旗国に再び対応を要請することになる。この場合、より確実に対応してもらうため、比較的事件への対応に積極的な傾向のある被害者の国籍国に働きかけ、同国から旗国である便宜置籍国に事件への対応を要請してもらう等の手段を用い、事件への対応を要請するものとする。
 
5.4 刑事裁判管轄権を行使する国の実際の対応
 旗国、被疑者の国籍国、被害者の国籍国のいずれが刑事裁判管轄権を行使するか決まった後の、当該国の実際の事件処理について考慮する。
 外国人同士の船内犯罪においては、刑事裁判管轄権を行使する国と、事件発生後の本船の最初の入港国とが一致する可能性は低いと考えられ、その場合管轄権を行使する国は、本船の最初の入港国に共助要請を行い、入港先の警察機関が本船における捜査と被疑者の逮捕を行うこととなると考えられる。
 管轄権を行使する国は、その後自国の警察職員を入港先の警察機関に派遣し、被疑者を引き取り、自国にて刑事裁判手続きを行うことになると考えられる。
 
5.5 外国人同士の船内犯罪処理のまとめ
 便宜置籍船における外国人同士の船内犯罪において、旗国、被疑者の国籍国、被害者の国籍国のいずれかが事件への対応の中心的役割を果たすならば、当該国が競合する管轄権の調整等を行い、事件の処理は順調な進展をみせると考えられるが、いずれの国も積極的な対応を行わない場合、船舶管理会社は事件処理のため各国に積極的な働きかけを行わねばならなくなる。
 図5.4.1に船舶管理会社による、便宜置籍船で外国人同士の船内犯罪が発生した場合の対応の流れを纏める。なお、ここで便宜置籍国はP国、被疑者の国籍はA国、被害者の国籍はB国とする。
 尚、図のフローチャートの流れであるが、船舶そのものに関わる関係法令は便宜置籍国により規定され適用されるものであるが、殺人事件のような重大な事件関しては、事件当事者の国籍国の刑法等に関与し、それら国籍国の法令適用範疇に関わることであり、事件発生後は直ちに、便宜置籍国及び事件当事者の国籍国へ連絡し、積極的に事件対応をする国に段階的に要請する処方で考察した。
 
図5.4.1  船舶管理会社による、便宜置籍船で外国人同士の船内犯罪が発生した場合の対応の流れ
 
6章 今後の検討課題
 便宜置籍船における船内犯罪処理の困難さについては、TAJIMA号事件により明らかとなったが、この事件を契機に、わが国では刑法に第3条の2が追加され改善が図られた。
 これにより、今後、便宜置籍船において日本人が関係する犯罪が発生した場合、日本の裁判管轄権が及ぶこととなったが、執行管轄権については、旗国が専属的に有しており、裁判管轄権についても旗国や事件当事者の国籍国など、複数の国家の管轄権が競合することに変わりはない。
 また、便宜置籍国の対応や被疑者の引受国の引渡し手続き問題も関係しており、日本が果たして迅速に裁判管轄権を行使できるかについては、刑法改正によっても大きな違いはないのではないかと予想される。
 以下に、本委員会で提起された今後に検討すべき課題について取りまとめた。
 
6.1 便宜置籍国の希薄な当事者意識
 公海上において発生した船内殺人・傷害事件は、まず船籍国が主導権を執って事件当事者の国(国々)と連携しながら事件を処理すべきことが基本である。
 しかし、便宜置籍国は概して船舶登録税の収入を主たる目的としている場合が多く、国際的に移動し、複数国が絡む外航船舶を運航しているという当事者意識が希薄であり、不幸にして船内で事件が発生しても、その処理に関して一般的に消極的な態度が見受けられ、船舶運航関係者にとって、事後処理に膨大な労力を要し大きな経済的損失を発生させる恐れがある。
 関係便宜置籍国に対しては、IMOを通じて、当事国としてもっと積極的に取り組むことを促していくことも必要である。
 
6.2 円滑な事後処理のための置籍国との協定
 前項において指摘したとおり、便宜置籍国や船員派遣国の当事者能力や当事者意識の強弱が円滑な事後処理の成否に大きく影響する。
 このような便宜置籍国の能力や意識改革について、わが国が云々すべき立場には無いが、事後処理を円滑に進める環境整備のために、わが国と関係便宜置籍国あるいは船員派遣国との2国間で、執行管轄権や裁判管轄権、あるいは初期対応の仕方など、事後処理が迅速かつ円滑に実施できるように予め協定を結ぶことも検討されるべきである。
 
6.3 事前調査の重要性
 TAJIMA号のケースでは、被疑者は無罪放免という結果になり、最悪の場合は、この被疑者が再び船上で就労するかもしれない。
 わが国の刑法が改正され一歩前進したとは言え複数の国が関係する事案においては、関係国間の調整に手間取るであろうことに変わりなく、船社は置籍国、船員派遣国、あるいは船舶管理会社等の選定に当っては、事前に十分な調査を行い、社会的責任が果たせる対象を厳選されることを強く望む次第である。


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更新日: 2020年9月19日

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