この作品は93年、留学先のパリで作曲され'98年に一部改訂された。
題名は柿本人麻呂の歌集「羈旅歌」から取られた。これら八首による「旅」の歌は、私の幼少からの憧憬の地である明石海峡、そして瀬戸内を舞台としている。その海路の「旅」は哥(うた)の聖(ひじり)であった人麻呂にとって、望郷や訣別の「旅」つまり、「死」を前提としたものではなかろうか(そして人麻呂の「水刑死」の暗示をも。)この歌集には一見のどかな美しいイメージとは全く裏腹な意味、世界が潜んでいる。曲はそのアンビヴァレンスから精神的影響を受け、題名とした。又、「旅」は作曲当時、ヨーロッパの中で「エトランジェ」としてすごしていた「自己」とも重り合い、この題を付けるきっかけにもなった。
本日、演奏して下さるアール・レスピランの3人のソリストの皆様、指揮をして下さる小松先生、東フィルの皆様、関係者の方々に深く感謝申し上げます。
法倉 雅紀