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--法倉雅紀君のこと--

 

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川井學

 

私が初めて法倉君に会った時、彼はまだ高校の三年生だったから、あれからもう二十年近い歳月が流れたことになる。豊かな才能とのびやかな感性が、そのまま溢れるように風貌に表れていた往時の聡明で鋭敏な少年は、時を経て35歳の立派な大人になり、年齢相応の、いや、それ以上の落ち着きと成熟の気配を身につけたが、少年の頃の濁りのない純粋さ、初々しいのびやかさは、清新で旺盛果敢な音楽への意欲と共に、今も少しも変わっていない。私はこのことにあらためて新鮮で爽やかな驚きを覚える。それは彼が、天性のまっすぐな人柄を、音楽への強い情熱と共に、労苦も少なくなかった筈のこの二十年間の歳月のやすりに少しもすり減らされることなく、逆に大きく育てながら保ち続けてきた、ということなのだから。私は、いくつかの機会や出来事を通じて、法倉君がいつも見せるさりげない優しさ、自然な謙虚さ、節度、品格といった特質が、実はひそやかだが尋常でない強さの表れであることを悟らされてきたのだが、このたしかで着実な持続ときびしい自己陶冶を支えてきたのも、彼のしなやかな樹木のような強靭さであったに相違ない。

もうひとつ、忘れるわけにはいかない法倉君の特質、自侍と独歩の気概も変わっていない。それは、どこにいても自己を閉ざさずに溶けこみ、場の空気を和ませながら、常に信条を貫いて決して安易に他と馴れ合ったり群れたりすることのない、やはりどこかしら野に立つ樹の豊かな孤独を思わせる静かで柔軟な不羈とでも言うべき姿勢である。

法倉君のこれらの得がたい資質は、彼に時流におもねることなく自身の音楽をたゆまずに追い求め続けさせてきた力であり、私が彼の誠実な歩みを信じ、折々の開花を心から楽しみにしている所以でもある。そして私は今、それらの彼の人間的特質が、「羈旅の歌」の持続の諸層を基音のように束ねながら、たしかな響きとなって聴こえてくることを待ち望んでいるところだ。

 

 

 

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