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次に、写真35を見てください。今、日本の海岸でどういうことが起こっているかといいますと、海岸線付近に世界中でどこも見たことがないくらい、圧力をかけています。これほど海岸線に構造物をつくった民族はいません。だから、日本の海岸を見て−−後ほど、アメリカの例をごらんに入れますが−−これが普通だという認識をもし子供たちが持った場合、科学的な精神がアメリカなどのように自然に普段から接している人々には、到底かないっこない。遺伝子がすごく狭まっている危険性があるんです。そういうことをしたら大人は無責任ですよね。さっきの清野さんのお話のように、2、30年間に猛烈に、自分たちのしたい放題をやりました。海をどんどんつぶして、生物なんかはいいと言ってやってきた。砂浜よりもプールがいいと、どんどんできてきた。ところが、そのようにやったのは、ほんとうに世界中で、この民族しかいない。それもお金があったからです。別に、それを批判しようとは思わない。しょうがない。その時代の趨勢だったという言い方もできるけれども、残念ですよね。ほんとうにいい環境というのは何かというところを、もう一回、考えてほしいのです。

写真36を見てください。ここには茅ヶ崎漁港があります。漁港の中に小さく並んでいるのが漁船です。さきほど、清野さんのお話にもありましたけれども、ここでも同じことが行われました。この種の漁港はわが国全体で約3,000あります。同じ時代に同じように苦労してきたわけで、浜辺へ船を引き揚げるのはつらくて嫌だと。例えば九十九里浜ではこのような船揚場がなかったので、砂浜でウィンチによってロープをかけた船を浜へ引っ張り上げた。また、漁をしたおやじが帰って来ると、おやじは漁をして疲れているので、お母さんたちが魚を下ろして、船を揚げる。そういう営みが、ついこの間まであったわけですよ。それが今はこうやって立派な漁港になっている。これ自身を否定することはできないでしょう。漁師達の身になってみれば、安全に、速く、腐っちゃう前に魚を揚げられる。でも一方で、それによって環境への影響が起こった。どうしてかというと、写真の中の沖防波堤の岸側に濁り水が見えると思います。写真左(西)側の海水は濁っているでしょう。濁った海水が、開口部を通過して東側へ抜けています。このようにして防波堤によって遮られて実は砂が東向きに流れていたのです。江ノ島の方へ。それが今、来なくなった。このような意味で、茅ヶ崎海岸では今、侵食が非常に激しくて、しかも国道134号線が背後を通り、周りに松林があるもので、汀線は後退することができないので、砂浜は悲鳴を上げています。

このような状態について考えるには、結局のところ、単一のものの見方ではだめであるのと同時に、何かを切り捨てるという見方はだめなのです。つまり道路をつぶしちゃえばいいとか。確かに、道路の部分を全部浜辺にすれば、立派な環境はでき上がります。しかしこの道路がなくなると交通の身動きができない。一方、この道路はいつも交通渋滞しているから、浜辺をつぶしてもっと前へ道路を広げてしまえと。それもまたおかしい。ですから、そこがさっき清野さんがジレンマ、ジレンマと言っていましたけれども、日本中がそういうジレンマに今は至っていると思います。このような問題に対して非常にきれいな解決法はないのです。しかし声なき声は聞かねばなりません。つまり砂は、文句を言うことができません。人は交通渋滞であればクラクションを鳴らすことができますが、砂は、いかんせん声が出ないです。そういう状態にあります。だから、このような点で、地域を歩いてみると、いろいろとおもしろいところが見えてきます。

 

 

 

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